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血潮は鉄で 心は硝子。

なだらかな丘陵に立つ村々に、炎が燃える。
丘を吹く強い風が火をあおり、田畑を焼き尽くしていく。
一面が真っ赤に燃える、その景色の中で
傷ついたアルトリアはその様を乾いた目で見守っていた。



「アルトリア」
そんな彼女にローブ姿の長身の男が声をかける。
「………マーリン」
振り返り、疲れた声で老人の名を呼ぶ。
「……………」
アルトリアは転がる小さな黒い塊に目を落とした。
それは人間の形をしている。
「……どうやら逃げ遅れたようです。
まだ子供だったのでしょう、ほら、こんなにも小さい」
炭になってしまった小さな子供を抱き上げる。黒ずんで炭化した
皮膚がぼろぼろと崩れ落ち、アルトリアの傷ついた鎧の上に零れ落ちた。
「後悔しているのかな?」
マーリンの金色の瞳は試すかのように輝きアルトリアを射抜く。
「王となるということ。
それは国を”生かす”為の剣になるということだ。
民を守り、騎士を守る。
ああ、それも王の務めだろうね。
―――しかし」




「………わかっています」




アルトリアは、きゅっ、と子供だったものを抱きしめる。
そうしてその額だった部分にキスをして草地の上に横たえた。
十字を切り、暫し祈ると立ち上がり、魔術師に向き合う。

「民から搾取し、戦の為にその土地を使う。
外敵を滅ぼすため騎士道の名の下、良き騎士達を戦地に送り出す。
それは―――国を守るため。
あの暗黒の時代から人々を守るため。
………それを成す事が、王たる私の勤めです」

焼けた村に黙祷一つ。アルトリアは陣営に向かって歩き出す。




「アルトリア」
魔術師は歩き去ろうとするその背中に声をかける。
「後悔しているのかな?」

「――――いいえ。
国を、守ること、その行為が。
犠牲が出ようと、より多くの――を守るという事に繋がるならば。
それはまごうことなき私の理想です」
振り向きもせず答えて、歩き出すアルトリア。




魔術師からの問いかけはもう無かった。







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常世の国アヴァロンその3。
王たる勤め。


アルトリアが選定の剣を引き抜き、竜の冠を頂くブリテンの王として立つと
どこの出自とも知れぬ小僧にブリテンの王が務まるものかと
北方や辺境地域の十一人の王達が反旗を翻し
アルトリア率いるアーサー軍と激突することとなった。
アルトリアにとってはブリテンを舞台とした初の大戦争となる。

オークニーのロト王を筆頭とした十一人の王達は強く団結し
各領土から集められた兵たちは六万を数えた。
これに対抗するため、アルトリアも小ブリテンのボールス王、ベンウィック王に
助力を願い、その兵力は増強されたが総数3万と少し。
兵力差を補うためには戦略をと、マーリンの助言に従い各地に斥候を放ち、
連合軍が攻め込んでくる北側の街道、田畑、村々を焼き尽くし、彼らの
行軍ルートを限定した。
これにより、連合軍の進軍を読みきったアーサー軍は連合軍に大打撃を
与えることに成功するのだが……。