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ただの一度も敗走は無く

アルトリアと共に、14名の騎士達もカムランを往く。
ベディヴィエールが用意した騎士達は
良き騎士でありながらも円卓の騎士に叙された者達ではなく
また、その力量に於いて未だ信頼にたる者では無かった。

それは、ベディヴィエールの不手際では決して無い。

円卓は度重なる動乱の内でその機能を失い
カメロットをにぎわした騎士道の花は、既に枯れ果てていたのだ。
枯れた花は、もう二度と咲く事は無い―――。





崩壊の始まりはいつだったであろうか。
マーリンの予言にある約束の騎士、サー・ギャラハッドが現れ、
円卓が最盛期を迎えた頃。

白都カメロットに『聖杯』が現れた。

突如として現れ、奇跡を成し、去っていった聖杯。
騎士達は神のみが成すその奇跡に酔い、我こそがと
聖杯探求への旅を王に申し出る。
アルトリアもそれに関心を寄せ、聖杯探索の命を円卓の騎士達に下した。



―――聖杯探求。
王としてのみ生きるアルトリアが何故それを求めるのか?
その理由はマーリンにより見せられた『未来のビジョン』に端を発する。

『聖杯が現れることはログレスの、円卓の衰退のきっかけになる』

万能の杯である聖杯には持ち主の願いをかなえる奇跡の力が秘められているという。

「ならば聖杯を手に入れ、
このブリテンの平穏が永久に続くように祈ることが出来れば―――」

アルトリアにはそのような思いがあった。






だが。
結果として聖杯は得られず、円卓の騎士の多くは傷つき、また命を落とした。
ログレスは斜陽の時を迎えたのだった。





聖杯が現れて数年後、白都カメロットにおいて。
帰ってきた騎士達の遺体を見、帰ってこなかった騎士達の報を聞き
アルトリアは膝を折った。嘆き悲しんだ。
己の分を弁えずに抱いた、『私情』と『欲』が
多くの騎士達を殺し、この結果を招いてしまったのだと。

『逆らえぬ運命というものを覆すことが出来るなら。
ログレスに永久の平和をもたらしたい―――』

それは、神ならぬ身の上において過ぎたる願いであったのだ。



なんと愚かな、アルトリア―――。
自分は知って選んだはずだ、この道を。
暗闇の中で燃える松明のように、暗黒に閉ざされたブリテンにおいて
神々しく光る、自分はともし火となるのだと。
そうして、たくさんの――が守れるのならば、それでいいのだと。
それが例え、報われない最後へと向かう道の上にあったとしても
構わなかった。
燃え尽きるまで輝けばよいと。


―――そうして生きてきたはずだったのだ。







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常世の国アヴァロンその5。
アルトリアと聖杯。



聖杯の探求は世に最高たる騎士のみがそれを成しとげられる、とある。
その資格の無いものは傷つき、倒れ、また命を落とすこともあるのだと。

幾人もの円卓の騎士がこの途中で倒れ、
サー・ラーンスロッドは不貞の穢れにより聖杯に至らずその力を失い、
聖杯の騎士サー・ギャラハッドはその奇跡によって死に、
自然を愛し、明るい騎士サー・パーシヴァルは慕っていたギャラハッドの死を
悼み、彼を追う様にして死んでしまった。



円卓は聖杯探求によってその輝ける栄光を失い―――
カメロットに斜陽の時が訪れたのだ。