
――――体は剣で出来ている
「ウスターズ・・・うう・・・」
女は一振りの剣――干将――を抱えて泣いていた。
白く曇った刀身を持つ夫婦剣――莫耶――を墓標とした、墓の前で。
孤児として生き、傭兵として生きてきた孤独な女を、ゲリラの戦士のウスターズ(教官)である
黒髪の女は良く使ってくれた。
決して親しいわけではなかったがそれでも尊敬する師であった。
襲撃のあった夜。怪我人と子供たち、そして老人を出来るだけ逃がすように
ウスターズは女に言った。
その悲壮な決意を感じた女は・・・。藁にも縋る思いであの男にもらった
剣、陰剣莫耶を預けたのだった。
―――干将莫耶。
愛する夫の為に己の身を犠牲にし完成させたと言われる悲しみの夫婦剣。
陽剣干将を持った女は莫耶を渡した女の犠牲で・・・。生き残ってしまった。
まるで悲しい定めをなぞるかのように。
町に帰ってきた女を待っていたのは無数の墓と、ひどい火傷を負いながらも
助かった幾人かの怪我人だった。
ほんの数人だけでも助かった人たちのことを喜び、涙しあっていた。
子供も老人も。みんなで。
「しっかり・・・しなくちゃ・・・」
女は涙を拭き、顔を上げた。
視界に広がる、たくさんの墓の丘。
それぞれの墓には墓標の代わりに剣が突き立っていた。
どれもこれもとても立派な剣で・・・。
まるで戦いによって散った命をアラーの下へ導く、力強い道しるべのように。
強く輝いていた。
「・・・・・・!」
その強い輝きを見たとき。
もしかしたら・・・。あの男。アーチャーが・・・。
彼らの無念を晴らし、そして怪我人達を守ってくれたのではないか。
そう、思った。
「助けて・・・くれたんだね・・・」
剣を抱きしめる。
生きていてほしい。たとえ報われなくても、辛くても。
人でいてほしい。
いつか笑い会える日の為に。
だから女は男を想い、そっと祈った。
「死んじゃだめだよ・・・・アーチャー・・・」
――――頭痛が・・・する。
体はまるで焼かれているかのように熱を持ち。
頭は常にハンマーで殴られるかのようなひどい頭痛。
手足は痺れ、怪我の為傷口はじんじんと痛む。
―――だが。まだ生きていた。
「ツ・・・・・グ・・・・・・アアア・・・ァ・・・・」
砂嵐の中、這うように進む。
そうしてなんとか洞窟にたどり着く。
崩れ落ちるように倒れこみ、そのままごろんと仰向けに寝転がった。
「ハァーー・・・ハァーーー・・ハァーー」
目を瞑る。
また・・・親しい人を失くしてしまった。
失ってしまった人たちの顔が浮かぶ。
『こんな愚かな俺の・・・理想がいつか叶う日があって。
みんなのいる場所で笑い会えるのかな・・・?』
洞窟の天井より、はるか高い空を見上げるように、遠い視線のまま・・・呟く。
「セイバー・・・遠坂・・・みんな・・・」
―――止まれない。
その笑顔の場所まで止まれない。
だから。今は死んだように眠ろう。折れそうなこの剣を魂の炎で鍛えなおさなきゃ。
―――体は剣でできている。
されど―――この心と体は未だ人の身。
この身が「そう」で無くなったとき。笑いあえるのだろうか?
―――みんなで。
そしてエミヤは眠りについた。
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あなたはおかしい、それは異常よ。と。
遠い日の少女たちは彼の事を真っ直ぐな瞳で言いながらも
共に在ることを良しとしてくれた。
長い旅の中で。
この道の隣を併走してくれた強き人達。
だからこそ彼は走ってこれた。
その笑顔の場所にいつかたどり着けると。
だが。彼と共に在るのは・・・思い出だけ。
これより未来。「止まった」その日に。
彼は己の終わりが訪れる日を予感していたのか。
「敵」の攻撃が強くなっていくにつれ・・・。
その孤独を深くしてゆく。
どんどん細くなってゆく一本の針の塔に登るがごとく。
無限の硬さと鋭さを持ち、底を持たない針の塔。
その頂上に「立った」とき、待ち受けるものはいったい何か。
彼は「そこ」にきっと笑顔がある。そう。信じていた。
だが。
・・・だが。