その体は、きっと剣で出来ていた。
ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・
傷が痛む。
―――足も重い。
だがそれは痛みのせいではない。一瞬の情動に敗北し、片腕の男の命を奪ってしまったこと。
救えたはずの命を刈り取り、己の矜持を裏切ったその後悔が呪いの様に彼の体を蝕んでいた。
意思の揺らぎは彼の体を強化するある種の呪祖――一種の簡易魔術刻印―――の侵食をも許す。
「ヅッ・・・・!!」
報いだ・・・。持っていけ。だが。止まらん!
右腕の呪詛が焼き鏝を当てたかのような熱を発する。だがそれはエミヤの意識を強く保ってくれた。
「間に合え・・・!!」
たどり着いた町は、見るも無残な状態だった。
子供だったものを守るように抱きしめる、黒焦げの母親の姿。
銃弾を受け、背中側の肉が無くなった伽藍洞の躯。
折り重なるように積まれた人々の死体。
攻め手である兵士の死体も転がっていた。
死屍、累々。
それは彼が見てきた紛争地帯では・・・当たり前のように繰り広げられる・・・日常だった。
地獄が日常になる。それが・・・戦争の姿。そこには利害も主義も理想も無い。
ただ―――死があるだけだ。
「――――――――ッ・・・・!」
まだだ・・・!生きている人間を探せ・・・!あきらめるな!最後の最後まで!
呪いの痛みが消え去る。
そうだ。私は・・・この体は。ただ誰かを救うためにあるのだから・・・!
パラタタタタタタタッ・・・・!タタタタタタッ・・・!
銃声が聞こえる。
まだ・・・戦いは続いている・・・!
走る。走る。走る。ただ走る。
そうしてたどり着いた「そこ」は。
――――地獄の、「底」だった。
炎を上げる建物。
入り口をふさがれ逃げることも出来ない。
窓から飛び降りる人もいる。だが火達磨になって落ちる人々を兵士は助けもせず
――――撃ち殺す。
その中に。一本の剣――莫耶――を持って火達磨になりながらも。
兵士を睨み付ける黒髪の女の姿があった。
―――私の中で。
何かが。はじけとんだ。
「■■■■■■ーーーーーーーーーッ!」
世界を―――侵食する。
炎が走る。それは我が身を焼き尽くす。
誰も救えない我が身を、我が魂を焼き尽くす憎悪の炎。
――我が魂を持って、錬鉄する。
この体は剣をうち。刃と成し。振るい続ける道具であれ。それゆえに。
――我が世界は我が血肉を歯車とし、動き続ける。
魂を焼き。肉を歯車とし。無限に剣を生む工房であり。・・・無数の剣が突き立つ・・・我が墓標。
エミヤがたどり着ける終点にして・・・究極の力。
―――無限の剣製―――
―――unlimited blade works―――
ピキ・・・・ぶちんぶちんぶちん・・・ビッ・・・ビビッ・・・ぶちん。
どこかで 破滅の 音がする。
限界を超え、彼自身の全てを持っていかれそうになりながらもそれは・・・
その「世界」は魂を食らって姿を現した。
『ああ。この体も魂も。
誰も救えなかった私には必要ない。持っていけ。
だが・・・。』
心眼が発する。
敵は百。だが恐るるに足らず。
―――殲滅せよ―――
『この矜持だけは。やらん。』
無謀。
現状の身体破損度では一人も殺さずに生きのびることは不可能。
『ならば書き換えろ。恐れるな。ここは私の世界。
ならばここでは誰も死なない。
故に私も死なない。
何故なら。我が体は。
―――無限の剣で、出来ているのだから―――!』
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もういうことはあるまい。
彼は己を貫く。
人でありながら剣であるその生き様。
すなわちそれが彼の世界。
武器は己の魂であり剣こそが彼の魂のあり方。
ゆえにその固有結界は成る。