
故に、生涯に意味は無く。
砂漠を行くエミヤの前に二人の男が立ちふさがった。
一人は片腕の無い男。もう一人は・・・見覚えの無い男だ。その出で立ちは
剣士・・・と言ったところか。
「・・・追っ手か。それだけの深手を負ってまたくるとはな。次は二人がかりか?
・・・無駄だ。私を止めることはできない。時計塔に帰るのだな」
片腕の無い男はその目つきを険しくする。
―――魔術協会。
神秘の秘匿と隠蔽を旨とするその組織は異端を許さない。
隠すことも無く存分に己の魔術を使い、人の争いに加担する。
それも―――現実を侵食するありえない投影魔術を使い通ける男を彼らが放っておく訳が無かった。
幻想の現実化。それは世界の理をくつがえす異分子。
エミヤは協会にとっても、「世界」にとっても。いずれは消去、または軍門に下さねば
ならない忌まわしい存在だった。
「ヒヒヒ・・・!こ、この片腕の礼をさせてもらいにキタッ!」
片腕の男は下がりもう一人、剣士が前に出る。
「フン・・・。先日とは訳が違うぞ・・・!
トレース・オン
――――投影、開始」
空中に現れた鋼の刃は空気を切り裂き、剣士に向かって一直線に飛んでいく!
「ヌ・・・!」
手に持った剣で迫る白刃を打ち落とす。―――だが。その一瞬でエミヤの体は
陰陽剣の間合いに剣士を捉えていた。
驚異的な突進力。その勢いに任せて体勢の整わぬ剣士に陰陽の刃を叩きつける!
ガンッ!ヂギィィィン!
「ヅァ・・・・!」
―――なんと重い一撃・・・!
剣士の膂力では防ぐだけで精一杯だった。
「貴様・・・本当に魔術師か・・・!?」
「悪いな。魔術使い、だ」
空間を走るいくつもの白刃。その一撃一撃が尽く必殺の威力を持って剣士に迫る。
6撃・・・!たった一拍の「間」の間にそれだけの攻撃をエミヤは剣士に叩き込んだ。
「・・・あ・・・」
片腕の男はようやく一言目を呟くところだ。
リロード
「――――投影、複写」
初弾で放った白刃を5本複製する。それはひとつのコマンドで複数の投影を行うコマンド。
剣士はふらついている。魔術師も攻性魔術を放てる詠唱を唱え終えていない。
(これで終わりだ)
とどめの一撃を・・・
「・・・われな女だったな」
―――――!?
「何と・・・言った・・・?」
手が、止まった。
「キヒヒ・・・おっと俺たちのせいではないぞ・・・?
あの町はもとよりゲリラの巣窟でな。
お前といた女・・・。奴もこの国の解放の闘士と言うわけだ・・・。
今日。あの町で。
政府側の大規模なゲリラ狩りが行われる。」
――――ッ!
「―――尤も。情報を流したのは俺だがな」
男の顔が笑みにゆがむ。エミヤの絶望の表情に。
「ぬ・・・・ヌアアアアアアアアアアアアッ!」
5本の白刃が片腕の男に飛ぶ。
二本がはずれ3本が、眉間、胸、わき腹に突き刺さる。
一発は確実に致命傷。男は倒れ付す。
―――だが。
「お前の相手は私だろう。エミヤッ・・・!」
剣士の使う炎の刃が。
エミヤの胸を撫で切りした。
戻る 次へ
誰より正しく、誰よりも強く、決して退かず何かを守る。
だが彼はその歪さ・・・いや正しすぎるゆえに誰にも理解されず
ただ一人。荒野を行く。いつか看取られる人も無いまま朽ちていくことを良しとして。
それは・・・なんと悲しい生涯なのだろうか。
人は誰しも己の幸せの為に生きている。
誰かを幸せにしたいと願うこともその帰結は己の幸せである。
しかし。
己のことを考えずただ誰かのためだけに生きる人生は・・・幸せか。
それは人の生き方に非ず。
道具である。
誰かの人生を支える道具。
人知れず誰かの下で人生を支え続ける道具。
その昔。彼の友人であった男はその生き方を「おかしいよ」と評した。
その言葉は誰よりも己のことを考える男が発したゆえに正しかった。
その「生涯に」意味は無い。
何故なら彼は道具だから。苦しみの障害をどこの誰かも告げずに取り去っていく
誰よりも正確なイレイザーだから。
何も残せない。誰も彼を知らない。
そして彼の目的は絶対にかなえられない。
故に・・・意味は無いのだ。