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彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う


昨日までと何も変わらずに、相変わらず女は良く喋り。
エミヤは苦笑をする。そんな短い旅。だがそれもここで・・・終わりだった。
町に着いたのだ。


「おわかれ・・・だね」
その顔は寂しい様でいて・・・とても満たされた顔をしていた。
「・・・・・ああ」
少しだけ。彼も険の取れた顔をしていた。
「あ・・・あのさ・・・あたしほんとは・・・その・・・あんまり喋らないほうだったんだ・・・。
でも・・・・・・あんたと話しててさ・・・あっ・・・、なんでもないよ!」
その頬を大粒の涙が零れそうになって慌てて女はそっぽを向いた。
「・・・私が自分のことを話したのは。もう10年来だよ。」
エミヤも照れながらそう呟いた。
「あ・・・・・・へへ・・・」
女も笑う。
「・・・そうだ」
どこからともなく二振りの陰陽剣を取り出す。
「餞別だ。君の守りになるだろう・・・売れば金にもなる」
「うわっ・・・めちゃくちゃ重いよ・・・!こんなの使えるわけ無いよ!」
「・・・まあお守りみたいなものだ。とっておけ」
女はそれを抱きしめるように持つと・・・とても嬉しそうに笑った。
「うん・・・!大事に・・・するよ!」
胸がずきりと痛む。
親しくなった人と別れるときはいつもそう。
―――だが。俺はきっと・・・死ぬまでこれを繰り返す。
誰も。付き合わせるわけにはいかないから。
だから・・・。
「じゃあな」
軽く言い捨てると。
ただ一人。砂漠に向かって歩き出した。


「元気でねーーーー!・・・あ・・・名前・・・」
聞かなかったし・・・名乗りもしなかった。
今まで生きてきた中で誰よりも鮮烈で、魅力的な男だった。
だからそんな彼を呼ぶ名前が無いのはなんだか悲しい気がしたので、女は考えることにした。
彼の名前を。

・・・男は常に剣を使っていたがそれよりも。
宿営地で初めてあの男を見たとき。
あの弓を構えたときの瞳が・・・ただただ美しくて。
怖いと同時に・・・きっと好きになってしまったんだと思う。
だからあの男を思い出すときは。弓に矢を番えたその姿が浮かぶ。
そうだ・・・・!

「弓の戦士・・・アーチャー・・・」

彼にはその名前が相応しい。そんな気がした。






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誰もともに歩いてゆけない。
彼には敵が多すぎた。彼は強すぎた。彼は間違えなさ過ぎた。
彼は・・・異常すぎた。いや・・・正しすぎた。

人は機械と同じ様には過ごすことは出来ない。
人はガソリンや電気で生きていくことは出来ない。
腹が減ったらご飯を食べる。だから食が違う。
人は同じことを延々と続けることは出来ない。
根本的にその精神はつねに動き続けることを要求するからだ。
人は夢を見る。希望も持つ。明日へ思いを馳せる。
だが機械はモノをいわない。明日を夢見ない。
ただ明日も今日と同じように続いていくだけだ。

エミヤは多くを望まない。
ただ明日を生きていく糧を得ればそれでいい。
エミヤは明日も人を救い続ける。
誰が望むわけではない。ただ困っている人がいるから助けたい。それだけ。
エミヤは夢を見ない。
何故なら彼の夢はかない続けている。
一歩たりともとまれない。そこはまだ夢の途中。
走りきるまで彼の希望は、夢は覚めない。
たとえゴールが無いとしても。


だから共に走るものは・・・途中で疲れてしまう。
苦しくて苦しくてもう走れなくても止まれない。
血を流し傷ついてもう走れなくなっても。
這ってでも先を目指す。

だから彼は常に独り。
その夢の続きを見たいから・・・
いつまでも戦い続ける。誰も勝利を祝わない丘の上で、ただ独りで。