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ただの一度も敗走は無く


夜中。女は物音に気が付いて隣で寝ている男のほうを見た。
そこでは寝る前よりさらにボロボロになった男が、荒い息をついていた。
形相も一回り険しくひどい頭痛に耐えているようだった・・・。

「あ・・・あんたっ!?」
「な・・・んでも・・・ない・・・」
「ちょっと・・・見せてごらんよっ!」
火傷の跡や打撲。ナパーム弾や大きな鉄球でも受けたのかと思うような・・・
ひどい有様だった。
「あ・・・ああ・・・酷い・・・」
ケープを裂いて応急処置をする。
険しかった男の顔が少しだけ、優しくなる。
「君は・・・私が怖くないのかね?」
「・・・・馬鹿だね・・・。あんたが化け物みたいに強かったから・・・今何があったか。
わかっちゃったの。
守って・・・くれたんでしょ?あたしを・・・」
戦闘があったのは明確で。戦場で長く生きてきた女にそれがわかった。
どんな類の戦いかはわからないが・・・。少なくとも。女は今まで安心して寝ていられたのだ・・・。
「あんたはあたしが見てきたどんな戦士よりも強いもの。強い戦士は決して死なない。
生きる方法を常に探すから。
いまあんたが生きるために一番確実なのは・・・あたしを置いて逃げること。
・・・・・・・でしょ?」
「・・・・・・・」
あっけにとられたように見る男。
一瞬。ほんの一瞬。怖がるような顔を女に向けると・・・
男は毛布をつかみ横になる。
「・・・・寝ろ。明日は強行軍になる。
あまえは足手まといだ。だからさっさと手放したい。」
ぶっきらぼうにそう言い放つと寝息が聞こえ始めた。
「・・・・ぷぷぷ・・・。(狸寝入りだわ・・・)」
サソリや毒蜘蛛とか・・・さっきから全部追っ払ってくれてたみたいだものね・・・。
いい奴なだけじゃなくて・・・不器用で。けどとても・・・・。
いい男じゃない。
女は顔に浮かんだ微笑を大事にしまいこみ。
どうにも不思議でつかめないけど・・・かわいくて頼れるこの男の背中で眠ることにした。





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何者かの襲撃。
その生き方ゆえに彼はさまざまなものから狙われている。
現代の英雄である性か。戦いの世の中ではない今、
彼がやることはあまりにも規格外すぎた。
それゆえにある組織から彼は狙われている。

だが彼は彼の矜持ゆえ決して敵に後ろを見せることは無かった。
なぜなら彼の後ろには望もうと望むまいといつも誰かがいたからだ。
それゆえに負けるわけには行かなかった。
ただ一人でありながら必要の無い多くの命を背負うこと。
それは誰が見ても愚かで、望みもしない人間の為に命をかける彼は誰にも理解されなかった。
誰も感謝はしない。なぜなら自分の命がたった一人の青年の行動に救われているなど
気が付きもしないのだ。
だがそれが彼を英雄たらしめ、そして彼自身を望まない未来へ導いたことは言うまでも無い。