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幾たびの戦場を越えて不敗


砂嵐の吹き荒れる夜。
小競り合いが続く国境地帯において中規模の軍事作戦を展開させる予定だった
一個大隊の側面をエミヤは強襲した。
既に武器破壊工作も完遂していたその強襲の戦果は巨大なもので
主だった兵装、武装、補給物資、退路を完膚なきまでに破壊された部隊は敗走せざるを得なかった。
それは既に人間の技ではなくまさしく魔術、魔法の類の手際と言えた・・・。
主だった破壊工作を終えたエミヤは追撃してくるスタッパーの迎撃しつつ
陣営からの退却を開始する。しかしそこで捕虜となっていた女を助けることとなる・・・。


「なんなのよあんた・・・」
「・・・・・だまっていろ」
「たった一人で・・・ひとつの部隊を壊滅させるなんて・・・あんた・・・・怖いよ・・・」
「それならそれでいい。ならば首をすくめて黙っていろ。舌をかむぞ」
「・・・・・・・あんたさ・・・・」
「・・・・・だから・・・・」
疲れたように眉根を寄せるエミヤ。
「なんであたしを盾にしないの?」
「・・・・・・・・・は?」
「その凄いボディアーマーあっても・・・んっ・・・つつ・・・。
弾食らったら痛いはずだよ・・・!
さっきから担いでるあたしを守る為に・・・受けなくてもいい銃弾受けてるじゃない・・・」
「・・・馬鹿野郎。何故盾にしなくてはならない。
生きたいと願え。そんな考えは頭から捨てろ。
君は―――幸せにならなくてはいけない。生きている限り、な」
「・・・!?え・・・・?」
「―――!」

100M先武装ハンドガンの兵士二名。種別デザートイーグル。
片手はふさがっている。防御パターン推定。防ぎきれない。
―――女を盾にせよ―――
既に「壊れた幻想」を二発使用。以降の投影は危険。
―――女を盾にすれば投影無しでの迎撃・撃退が可能。被弾の可能性も低k―――
うるさい!
 
トレース・オン
  「―――投影開始―――!」

作り出した二振りの陰陽剣をそのまま「投射」する。
英雄王ギルガメッシュが見せていた剣射撃。その模倣。
既に数え切れないほどの実践を潜り抜けた照準はその狙いを寸分違わず、兵士の腕に吸い込まれた。

「があっ!」

二振りの陰陽剣がデザートイーグルをはじき二人の兵士の利き腕を断つ。
―――悪く思うなよ。・・・・ヅッ・・・!
目から流れ出す血一筋。

「・・・・・・あんたっ・・・!」
「黙れと言っただろう・・・!」
睨みつけた女のその顔は、怯えでも恐怖でもなく、微笑みだった。
「あんた・・・・・・・・・・・・いい奴でしょ」
―――毒を、抜かれた。






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すでに身体能力は人間の限界に迫るほどに研ぎ澄まされ
その精神は一瞬で数十にわたる防御パターンを連想し
攻撃手段や戦術は数千に及ぶ。
人を救うために効率よく人を破壊する方法論を極めた存在。
おおよそ才能や才覚、突出した何かを持たない衛宮士郎にとって
どうしたらこの身で無用な戦いを止められるのか。それを実践した結果だった。
ただただ己の体を戦闘技術において特化させる作業。
それは無限に集中し続けることの出来ない人間の精神にとっては届かない高み。
ある意味なにかを貫くこと、に関する才能は彼は飛びぬけていた。
魔術使いでありながらただの魔術師よりも固定化された概念として存在し。
才能を待たない人間でありながらその戦闘能力は通常のそれを凌ぎ。
実現不可能な夢にその力の全てを注ぎ込むというそのあり方。

だがそれは絶対的な力。
おおよそヒトの個人という単位がたどり着ける限界であり。
それゆえに彼はそれを実行し続ける限り――不敗である。