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血潮は鉄で 心は硝子
砂漠の町の路地裏。
角で待ち伏せでもしていたのか。鼻先に飛んできた暴漢の拳を相手のリーチぎりぎりでかわすと
その腕をいとも簡単に極める。
「・・・なにをする」
「アガガガガガッ・・・・!!
チッ・・・弓兵だかなんだかしらねえが・・・お前みたいなのがいると
こちとらお飯食い上げなんだよっ!」
「・・・・自分の為に誰かが傷つくこと――戦争――を良しとするか。
貴様の妻は?子供は?
―――そんな人たちが泣くことを、貴様は良しとするのか」
「・・・っっうるせえっ!こっちは戦争がなけりゃ、かあちゃんも息子も食わせられねえんだよ!
・・・てめえ報酬を孤児にくれてやってるらしいな・・・何様だてめえは・・・!
気持ちわりいんだよっ!お前みたいなわけわかんねえのがいるのはなっ!」
「―――ッ・・・!」
ふと緩んだエミヤの腕をすり抜け男は逃げていく。
空ろな目で、路地裏に消えていく男を見送る。
自分の、手を見る。
血で汚れたその手を。
ひび割れ、硬くささくれ、誰かを傷つけることしか出来ない、その手を。
守ったものを愛することも出来ないこの手。
―――体は、剣で出来ている。
「折れるな・・・・!!」
誓ったはずだ・・・。私は。ただ一振りの剣であると。
ならば強く。硬く。血潮まで鉄の真っ直ぐな刃であれば―――いい。
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綺麗なものを追い求めた少年は
ただ純粋な正義を強大な力を持って行使する
存在となっていた。彼は誰よりもうまく、そして正しい。
しかし。そのあり方は彼を見るものに一体
何を想起させるのか。
それは鏡。己の中の不純を映す鏡。
それを見る者は気が付いてしまう。
己の中の後ろ暗い何かを。
それゆえに彼は誰にも理解されることは無い。
だが。鏡はただ鏡であろうとすることに
疑問を抱かないのか?
それは違う。なぜなら―――彼もまた人間であるから。