
壊れた弓矢
砂塵が吹きすさぶ視界も効かない砂漠の町に
一人の男がたどり着いた。
まるで戦の匂いに・・・死臭にひきつけられ
さまよう狂った犬の様に。
「仕事をもらいたい」
「・・・・ン。
傭兵の口か?いまは割のいい仕事口はねえぜ。
・・・・まさかとは思うが・・・
そのボロボロの身なりを見ると
この暴風の中歩いてきたって感じだが・・・。
残念だったな」
「割に合うかどうかはどうでもいい。
この地域で、戦争が起きているなら。
仕事をくれ」
ゾクッ――――
口利き屋の背筋に寒いものが走る。
傭兵は己の命を賭けて戦場を渡り
金を稼ぐ連中だ。
命はひとつしかない。ゆえに危ない仕事は引き受けない。
だが。
目の前の男の目は。
冗談でもなんでもない。己の命を顧みない。
そんな目をしていた。
「・・・・・。あんた・・・名前は?」
「エミヤ。
ファーストもファミリーもない。それが私の名だ」
ザワッ・・・・
『壊れた弓矢・・・!』
『あの・・・弓兵か・・・!?』
斡旋所が騒がしくなる。
それは伝説のようなものと思われていた。
それはあまりにも狂った逸話。
ただの弓矢で戦車砲以上の火力を生み。
ただ両軍の戦闘物資を破壊し
戦闘をできない状態にして去っていく。
死傷者も殆ど出さずに、だ。
それが『弓兵』エミヤであった。
「じ・・・実在したのか・・・。」
「なんでもやろう。
ただし。それがこの戦いを終わらせる為の
近道ならば、だ」
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孤独な戦い。
人を殺さず人の起こしたものを止める。
それを実現する為にはただただ圧倒的な力が必要だった。
男はただ戦場に身をおくことによって
それを身に着けた。
我が骨子は、捻れ曲がる。
「壊れた幻想」。
そして機を読み先手を制し
退くべきを知る「心眼」。
彼の行く先で戦は確かにその鳴りを潜めた。
彼自身のかけがえのないなにかを代償として。
喜ぶ人はたくさんいた。
だが彼自身を理解できる人間はいなかった。
それは
彼がやることがあまりに壊れていたからだ。
魔術使いとしてのあり方も
そして人としての生き方も。
それゆえに人々は彼を
皮肉を込めて「壊れた弓矢」と呼んだ。
これは反英雄、エミヤの
人であった頃の異聞。