■コイムスビ-神様と一緒-
―――空の目





 殺し合いがあった。





 それは、世界の半分を巻き込んだ殺し合い。
 戦いによって世界には嘆きが満ち、屍が積まれ、罪が溢れかえった。

 愚行は続き、人々は嘆く事に疲れ果て、殺し合いが終わる事を望んだ。
 その願いは、より多くの命を支払う事によって終着を見る。
 より多くの嘆きが生まれた。けれど、これ以上嘆かなくていいのだと人々は安堵した。


 だが。


 終わってからもなお、嘆きを生み出す者がいる。
 終わってからもなお、他者の尊厳を踏み躙る者がいる。

 故に―――殺し合いは終わらない。








 深い深い森の奥。
 天に届かんとする緑の天蓋の底。
 澄み切った川のほとりで、最早動けぬ身を横たえる男たち。

 男たちは異物だ。清浄なこの場所で、存在の許されない罪深き者。
 異物は排除されるもの。罪は断罪されるもの。
 男たちを消し去る為か。
 緑の闇が閉ざす深い深い森の奥には、無数の、殺意、殺意、殺意。


 男は、その時が来たのだと悟る。

 愚行と知りながらも手を染めた。
 罪を知りながらも刃を振り下ろした。
 断罪は然るべき報い。その殺意は然るべきもの。
 男は、それだけの罪を犯したのだから。

 けれど。

 男は、倒れ伏す僚友達を見て唇を噛む。動かない手を激しく呪う。
 彼らに罪はない。彼らに責はない。
 それだけは、許してはならない。

 彼を、彼らを死なせてしまう事だけは、断じて……!



「呼んだ?」


 唐突に。

 本当に唐突に。
 信じられないタイミングで現れた、幼い赤。


「――――――」


 安心させるように、不安を消し去るように、微笑む少女。
 その微笑みは。


 呆れるほどの無邪気さで。
 眩いほどの強さで。
 ありえないほどの、奇跡を伴って―――


「もう、大丈夫だよ」


 絶望を、洗い流した。





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