■コイムスビ-神様と一緒-
―――響6:お日様護法と神無月 後編


 はいけい、あるじさま。
 今日、ととさまが“神議り”の為、出雲へと旅立ちました。


 ここから出雲まではたいへん遠いので、旅の支度も大変です。
 なので、干しイモとか、おさかなの干物とか、この日の為に用意しておいたものをいっぱいみつくろって、ととさまのおべんとを作りました。

 支度の最中、ととさまが干物の一つを取って、
「これは響が取って来たものだろう?」と言って、干物の出来を褒めてくださいました。
 わたし、すごくびっくりして、何で判ったのですか?と、ととさまに尋ねました。すると、
「響がととさまの為にとってきてくれた魚だから、見ただけですぐにわかったぞ」
 と仰って、響がつくったものひとつひとつを褒めては、かかさまにも負けない、将来は立派なお嫁さんになるぞって、いっぱい撫で撫でしてくれました。


 ……わたし、なんだか、なんだか……。
 胸が一杯になって、ぽろぽろと泣いてしまいました。
 ととさまはびっくりして、涙を拭き拭きしてくださったのですが、響の涙は止まりません。
 だって、ととさまはわたしのこと、いっぱいいっぱい思ってくれて………ととさま大好きって気持ち、全部全部判ってくれてるのに。
 響はととさまを寂しがらせるばっかりで………。



 それからととさまは、わたしを慰めるために、旅のご用意をそっちのけで、たくさんたくさん楽しいお話を聞かせてくれました。

 ととさまが小さいうりぼうだった時のお話。
 他の護法達と共に“荒神”と戦った勇ましい戦いのお話。
 かかさまと結婚して、一緒の生活の中であった、楽しい日々のお話………。


 みんなすごく楽しくて、響の中の悲しい気持ち、どこかに飛んでしまって。
 ととさま、次、次って催促していたら、最後の最後に………響のお話になりました。

 響がおっぱい離れ出来なくて、ととさまのお指を噛むのが好きだったとか。
 夜眠る時、ととさまのすぐ横に入ってくるので、潰さないように寝るのが大変だったとか。
 水浴びより泥んこ遊びが大好きで、すぐ汚すので、舐めて泥を落とすのが大変だったとか……。
 恥ずかしいエピソード満載でしたが、響の事お話しするときのととさまは、本当に幸せそうで、嬉しそうで……。



 最後にととさまは、響の頭をぐわしっぐわしっ!って撫でて、

「響が笑顔だと、ととさまも笑顔になる。
 響が幸せだと、ととさまも胸が暖かくなる。
 ととさまがもし……寂しくても。
 響の笑顔で暖かくなる事のほうが、何倍も、何倍も嬉しいから。
 だから、望むように生きなさい。それがととさまにとって、一番の幸せなのだぞ」

 と、仰いました………。



 どうして寂しいの?とか、何にも聞けなかったけれど………。
 でも、あるじさま。響は一つだけ判りました。

 私の嬉しいは、ととさまの嬉しいなんだって。
 立派な護法になって………ととさまも幸せにすればいいんだって!
 だからもう、悩むのはやめにします!
 響は笑顔で、一生懸命だけがとりえなんですから!



 あるじさま、響はいつか立派な護法になって、あるじさまのお役に立って見せます!
 だから、まだまだちいさくて、お馬鹿な響ですけれど……。
 優しく見守っていただけると、とっても嬉しいです!


 神無月、戌の刻。
 あるじさまと、ととさまかかさま大好きな、響よりっ!
 けいぐ!

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