■コイムスビ-神様と一緒- |
■―――響19:未熟 |
「はれ………?」 目が覚めると洞窟の中だった。 洞窟に差し込む光は、すっかりオレンジ色で暖かく、周りを見渡してもかかさまの姿は見えない。 食卓を見ると、サツマイモの芋尽くしは残らずなくなっていた。 「かかさま、お仕事に出かけたんだ」 朝、黒髪の人のところで気絶して、かかさまに運んでもらったのだろう。 それからこの時間まで寝ていたらしい。 「う………今日はかかさまの代わりに頑張るって決めたのにな」 疲れているかかさまを休ませてあげようと思ったのに、これでは迷惑をかけただけ。 あまりの情けなさにションボリとしていると、脳裏に黒髪の人の顔が浮かんできた。 『なんで謝るんだよ』 「……なんでかな」 胸に広がるモヤモヤ。そんな事、考えた事もなかった。 「……ううん」 頬をピシャリと叩いて立ち上がる。考えたって変わらない。 出来ること探しにいこう! 洞窟の外に出た私は、近くに住んでいる猪の親子にお山の事を聞いてみた。 今日は見回りしていないから、何か困った事は無かったかって。 すると、『調さまが見回ってたからへーき』と返ってきてへこんだ。 ううう……かかさま境界地の見回りがあるというのにお山の見回りまでこなされたのですか。 「はふぅ〜……」 とぼとぼと山道を歩く。 私がいなくっても日々は回るという事実にさらにへこむ。 よく考えてみれば私が生まれる前はととさまとかかさま、二人でお山を守っていたのだから、こなせて当たり前なのだ。 でも私は、朝から晩まで一人でこなすのが精一杯。 「ううう……」 あまり考え込むと際限なくへこみそうなので、なんとなく柔軟体操でもしてみる。 おいっちにと体を動かしていると、ちょっとずつ元気になってきた。 うし、再始動です! とはいえ、お夕食までは時間もあるし、何をしたものかと途方にくれていると。 「おう、おちびちゃんじゃねえか」 「ふぁい!?」 突然かけられた声に背筋が伸びる。 振り返ると、洞から顔を出している黒髪の人。 歩いているうちに清水の洞まで来てしまっていたらしい。 「さっきは悪かったな。まさかあんな事になるとは思わなかったからよ」 「い、いえっ! 私も注意しておかなかったのがいけないんですし!」 原因は判らないけれど、あの森で出会った何かに触れると“痺れる”らしい。 一晩眠ってすっかり失念していた。気をつけなくちゃ。 「んじゃあいこだな」 黒髪の人はニカッと笑うと、ふらつく足取りで外に出てきた。 見慣れない服に杖一つ。覗く肌の部分には未だ生々しい傷痕が走っている。 「動いて大丈夫なんですか?」 「こういうのは傷いてぇ! っー気持ちに屈したら負けなのさ」 「そ、そーいうもんですか?」 「そーいうもんさ。世の中は気合で回ってるんだ」 引きつり笑顔が何か気になるけれど、当人が良いというのでいいのだろう。 黒髪の人は私の隣に腰掛けると、大きく伸びをする。 「いちち……。 んで、なんだよ。何を黄昏てたんだ?」 「は……やや! いえ、その……」 まさかやることが無くて困っていたなんて言えない。 口元をもにょもにょさせて言い淀んでいると、私の気配から何かを察したのか。 「ははーん……」 「な、なんですか」 「いんや」 ニヤニヤ笑い一つ、山肌にねっころがってしまった。 「………………」 そうして、何をするでもなく時間が過ぎる。 夕暮れの柔らかい風は山肌を過ぎ行き、私達の髪をそよそよとなびかせる。 起きているのか寝ているのか、黒髪の人はそれっきり何も言わないで、 風の温かみに身を任せたまま動かない。 「………………」 こんなに平和で、穏やかな時間なのに。 何故だか私は、焦るような、困ったような、そんな気持ちになるばかり。 何かしなくちゃいけないんじゃないか。 何かを成さなくちゃいけないんじゃないか。 そんな思いばかりで、そわそわ、そわそわ落ち着かない。 「………………」 動いていないからか。 熟れ過ぎた柿みたいに真っ赤な光の中で、心の中の焦燥は大きくなるばかりで。 これじゃあ駄目だって、そう思ったその時―――。 バチバチバチバチバチッ!!! 「みぎゃーーーーーーーーーーー!!!!!」 「うぎゃああああああああああああ!!!!」 ビリビリがドバッと来た。 「うぎゅーーーー!!! な、なにするんですかー!」 「おお………おおお………。 軽い接触でこれか………ぐお」 ガタガタと体を痙攣させている黒髪の人。 私の背中をチョップしたのか、彼の右手が背後の地面にぽてりとおちてる。 「……っんだぁぁぁぁぁあ! ったく、ちっせぇのに難儀なちびっこだな!」 「あや………?」 「来るか?」 「………え?」 「やることねえんだろ。 ついてきな」 コイムスビ-神様と一緒- 響19。 小さな焦燥。 |
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