■コイムスビ-神様と一緒-
―――響18:ごめんなさい



「ぷあ〜〜!
 生き返ったー!」

 器に汲んできたお水を飲んで、黒髪の人が幸せそうに叫ぶ。
 その様子にちょっと目を丸くしてしまう。こんなにお水をおいしそうに飲む人、初めて見ました!

「おちびちゃん、水ありがとうな。
 礼を言う」
「あ、ああ! いえいえ!
 礼には及びません!」

 膝に手をつき、深々と一礼。
 あんまりにも大げさな礼にやられたこちらがどぎまぎしてしまう。
 態度はぶっきらぼうだけど、なんと言うかこう………洗練?というんだろうか。
 礼の所作がにじみ出る人だ。

「傷の礼も含め、感謝しても足りない恩の数々。
 重ねて礼を申し上げる」
「あ、あややや………えぇと………それは………」

 下げた頭に強い謝意を感じる。
 ううう、傷の手当てをしたのは私じゃないから、こんなにお礼されても困ってしまう。

「傷の手当てをしたのは私じゃないんですよ!」
「む? ではご家族の方が?」
「は、はいっ! かかさまがあなた方の治療を致しました!」
「ふむ………? そ、そうだ! 他の連中は………?」

 黒髪の人は慌てて頭を上げると、周囲に寝ている二人の姿を見つめる。
 胸が上下している事を確かめると、安堵の溜息をもらした。

「ありがたい………して、他の奴らは?」
「ほか?
 いえ、三人だけですよ」
「―――!
 三人………これ、だけ?」

 私の答えに目を見開くと、黒髪の人は黙りこんでしまいます。

「え………もしかして、他にもいたんですか?」
「他には、見なかったのか?」
「えと………残念ながら」
「そうか」

 そう言って目を伏せてしまう。
 あっさりした口調。その眼差しはどこかその結果を理解していたような、覚悟をしていたような。
 でも………感情を仕舞い込んだ黒い瞳には、何処かやりきれない、そんな色が感じられて……。
 わたしの胸は、なんだかきゅっ、って締め付けられたように苦しくなって。


「ごめんなさい……」


 気付いたら、ぺこりと頭を下げていました。

「……へ?
 なんでおちびちゃんが謝るんだ」
「え、う、その……」

 なんともいえなくて、口をむにゅむにゅとさせてしまう。
 その表情を見て半眼になる黒髪の人。
 しばらく押し黙ったかと思うと、口をへの字にして、ばつが悪そうに後ろ頭をかく。

「あー………っくしょう、なんかモヤモヤすんな………!
 おらっ、ちょっとこっち来い」
「や? あやや?」
「あややじゃねえ。だから、こうだ!!」




 ベシッ―――バチバチバチバチバチッ!!!




「ぎ、ぎええええええええええええええ!!!??」
「ぎゃわーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

 黒髪の人が私の頭を叩いた途端、猛烈なビリビリが全身を駆け抜ける!

「………う、ああああ……
 だ、だだ大丈夫ですか………?」

 ビリビリから開放されて顔を上げると、目の前には痙攣しつつガタガタと震えている黒髪の人の姿が!

「お………おおおお………」
「あ、あわわー!?
 しし、しっかり! しっかりしてくださいぃぃ!」
「ちょ、さわっ………ぎええええええええええええええええええ!!!」
「ぎゃわーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 慌てて起こそうと黒髪の人に触った途端再び走るビリビリ!


『きょ、響っ!
 今の大声は何事ですかっ!』


 私達の悲鳴を聞いて飛んできたのか、遠くからかかさまの声が聞こえる。
 ああ、かかさま………響はびりびりでもう意識が………。

「きゃー!?
 な、何事、何事ですこれはっ!?」

 走り寄るかかさまのお声を耳に聞きながら、私の意識はゆっくりと暗闇に落ちてゆくのでした………。





コイムスビ-神様と一緒- 響18。
黒髪の人との語らい。
響の答えに不服を感じた彼は、何かをしようとしたのだが………。





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