■コイムスビ-神様と一緒-
―――響16:眠りにつくまで




 はいけい、あるじさま……。
 今日は大変な事がありました。
 が、頑張って報告しますね。


 かかさまと二人だけのお役目は、お昼までは何事もなく進んでいました。
 ですが、夜になって、不思議な匂いを感じたのです。
 その匂いは、神域の中で誰かが傷ついている匂いで、響とかかさまはその人たちを助けるために、なんと境界地に入ったのです。

 境界地の中は、お月様の光も薄らとしか入らない、高い高い木がたくさん生えていて、想像を絶する、深い森でした。
 真っ暗闇で怖い中を、赤い糸を辿って奥へ奥へと進んで……。

 そ、それで………それで。
 ………………………。



 う………。
 あるじさま、みっともないけどっ、おはなし、聞いてもらってもいいですか?
 胸の中のこと、聞いてもらっても……いいですか?


 森の奥で、穢れって言う、怖いのが、いっぱいいっぱい出てきたんです……。
 わ、わたし……そこで、怖い匂いをたくさん浴びせられて、夢を見たんです。
 暗くて狭い、何処かのお部屋で………誰かが、酷いことをされている………夢。

 ………ぐすっ。
 たくさん痛くて、たくさん辛くて………胸が潰れそうなほど、悲しくてっ………。
 その痛みが私の中に溢れて、胸をぎゅーーって、締め付けるんです………。
 苦しいよ、悲しいよ、助けてよって………聞こえるようで………。
 かかさまが、私のこと叱ってくれなければ………きっと、夢の中で死んじゃってたんじゃないか………って思うんです。


 その匂いが、まだ胸の中にあるんです。
 あの子の事を思うと、悲しい気持ちが一杯になって……涙が零れてしまいます。
 あの子は、きっと死んじゃったんだと思うんです……。あんな気持ちのまま、大勢の人に酷いことをされて、死んじゃったんだと思うんです。
 心の中、悲しくて辛い気持ちでいっぱいで……胸がとても苦しいです……。

 あるじさま、あの子の魂も、いつかあるじさまのいるところに登れるでしょうか……。
 苦しくて、悲しい思い、いつか癒されて、綺麗になってあるじさまの場所までいけるようになれるでしょうか……。

 こんなことあるじさまにお願いするなんて、きっとおこがましい事なんでしょうけども。
 どうか、あの子の魂があるじさまのところにいけますように、許してあげてください。
 どうか、あの子の傷が癒されますように、優しいご縁を結んであげてください……。



 そのあと、かかさまのお力で穢れの群れを突破して、とっても綺麗な川原に出たのです。
 そこで、傷ついた人たちを見つけたのですが……。

 あるじさま、助けた人の匂いがね、悲しい出来事を……許せないって。
 だから、手が届くなら助けるんだって。
 助けられない自分を恥じろって、吠えていて。

 わたし、立派な神様になって、みんなのご縁を守って、苦しい人を助けたいって思ってたのに……その思いの意味を、判っていなくって。
 私の気持ち、あの人の気持ちの、足元にも及んでいなくって……。

 私はなんて未熟なんだろう……って思ったのです。





 少し落ち着きました。
 ごめんなさい、あるじさま。泣き言ばかりで、ご報告になっていませんねっ。
 響はよわよわです……。かかさまに頑張りますって言ったのに、めそめそしてばかりです。
 ほんとは、悲しい事も、苦しい事も、みんな包んで許して上げられるようになって、本当の神様なんだと思います。
 かかさまみたいに、苦しい事悲しい事、全部受け止めても、自分の思いを貫けてはじめて………本当の神様なんだと思います。
 わたし、まだまだいっぱい頑張らないといけませんね!

 あ。
 あ、あのう……それでですね……。
 ご迷惑かもしれませんが、今日、かかさまは彼らのこと目が離せないって言っておられるので………。
 そ、その、うりぼうみたいなこと言いますが、ここで眠っても良いですか?
 あるじさまがお眠りになるまででいいですから、響の事、見守っていただければ……嬉しいです。

 あ、あややっ。
 恥ずかしいですが、も、もう響の恥ずかしいとこ結構見られておりますので、今更取り繕いはいたしませぬ!
 そ、そういうわけでお顔を洗ってきますねっ! で、でわっ!



 神無月、亥の刻。
 あるじさま大好きな、響より。
 けいぐっ!



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