■コイムスビ-神様と一緒-
―――響14:神威




 ぶつけられる悪意。匂いたつ激情。
 何処かの出来事。その匂い。





 それは





 暗くてトジコメタイ ナキサケバセタイ


 怖くてコワガラセタイ キョウフニススリナクカオヲ アシゲニシタイ


 苦しくてクルシマセタイ イキノネガトマルマデシメアゲタイ


 悲しくてカナシマセタイ オヤモオトウトモコロシ ナゲキノナカニツキオトシタイ


 辛くてツラガラセタイ モウムリダトサケンデモ ケッシテヤスマセタリハシナイ


 酷くてナミダガカレルマデナカセタイ コエノデナクナルマデナグリツヅケル


 惨くてチマミレニナッテモ ツカイモノニナラナクナッテモ ツラヌキツヅケル


 痛くてイタガラセタイ


 痛くて 痛くてナグリタイ アシゲニシタイ


 痛くて 痛くて 痛くてノノシリタイ キズツケタイ


 痛くて 痛くて 痛くて 痛くてカミツキタイ クイチギリタイ


 痛くて 痛くて 痛くて 痛くて 痛くてサシタイ キリタイ ツブシタイ ウチタイ フキトバシタイ ヒキサキタイ ヒキチギリタイ


 痛くて 痛くて 痛くて 痛くて 痛くて 痛くて 痛くtケガレケガレケガレケガレケガレハイシャケガレケガレケガレハイシャハケガレケガレマケタノナラケガレケガレケガレナニヲサレテモケガレケガレケガレケガレケガレk







 ―――っ………!


 や………やだ、やだやだっ!
 り、理解したくない……理解したくない!
 彼らがどうしたいか・・・・・・なんて、判りたく無い!

 でも、目を逸らせない。だって、黒い害意からは逃げられない。逃げようが無い。
 暗闇の中、赤く光る欲望の目は、どこにも、かしこにもある。
 そう、判る。感じてしまう。部屋の中に、畳の上に、布団の上に、足元に、私の首筋に!
 感じられる場所全てに―――埋め尽くすようにたくさんある!





《ハハハハハハハハハヒハハヒヒハヒヒヒハハハハハハキキキヒヒヒヒィィヒヒイイヒヒヒハハハヒヒヒハハハハハキキヒヒハハハヒヒィヒヒヒキヒヒハハヒハヒィハハヒヒアアハハヒヒ》





 絡み付く視線はいたぶるように舐めまわすように突き刺さり、息遣いは荒く下品に繰り返される。
 想像してる、想像してるんだ、その害意を想像して、わ、わたしを……

 や―――やだ、そんなのやだ、やだ、やだ、やだ!
 怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い……!
 い、いい子にしますから……っ、いい子にしますから……、だ、だから………













「――――――黙れ」



 ―――喝。

 圧力すら感じる、威の篭った言葉。
 あれだけ騒がしかった穢れは、ただそれだけで静まり返る。
 でも、その声は……悪いものを黙らせるだけじゃなくて。
 怖い怖いで凝っていた私の心も………一撃で。粉々にしてしまった。

「………………………あ。あや………」
「目が、覚めましたか?」

 緑の、匂い。草の匂い。
 大好きな、かかさまのっ、匂い!


「か………………かかさま。

 かかさま、かかさま、かかさまぁ!
 びやあああああああああああああ!」


 鼻水と涙でぐしゃぐしゃのお顔のまんま、かかさまに思いっきり抱きつく!

「わああああああああああんっ!
 かかさまぁ、かかさまぁ〜〜〜!」
「あら………。
 やりますと啖呵をきったのは誰ですか?」
「だって、だってぇ〜〜〜〜!」
「もう………ですが、かかさまは甘やかしませんよ」

 数百の赤い目に猛き気配を送りながらも、私を見つめる美しい瞳は暖かで、力強い。
 見捨てない、けれど、甘やかさないと語るその目は、こう言っていた。
 自分の意思を、貫けますか、と。

「貴方は“やる”といったのです。
 ならば、斯様な窮地で我を忘れるなど、言語道断」

 守るように、諭すように私を見つめ、穢れの群れへと視線を流すかかさま。
 その圧力を受けて、じり、と下がる群れ。
 あれほどの勢いと強烈な感情の匂いは、ただそれだけで私に届かなくなった。

 汚せない。
 かかさまの意志は汚せないんだ。
 だって、かかさまは決意している。
 どれだけの悪意が向けられようとも、自らの意思を、自らの力で貫く事を、決めている。

 その手から伝わる、確かな温もり。強い意志。
 それはきっと、私にとって、嬉しくって、幸せで、厳しくて、かけがえの無いもの。

 それを守るために、一歩たりとて退かないと……決意しているんだ。

「涙を拭きなさい。
 貴方は何のためにここに来たのです」
「!」


 困ってる、誰かがいる。
 だから来た。その人の力になるために、やってきたんだ。


「………う、ぐ………」

 涙を拭く。鼻水も拭く!
 腰はふらふら、しゃっくりあげるお腹は、悲鳴をあげっぱなし。
 怖くて怖くて、いっぱい怖くて。
 目前に広がる悪意の群れに、何か出来るなんてとても思えないけど。

 それでも。私は護法だ、神様なんだ。
 顔を上げて、胸を張って、前に進まなきゃ!


 自分の意思を、貫かなくちゃ!


「いけます………頑張ります!」
「………はい。
 しかと聞き届けましたよ」

 そうして、かかさまの視線は敵に見据えられる。
 そう、私に気を配る必要は無い。
 その必要なんか、無いんだ!

 無言のまま敵を睨みつけるかかさま。邪魔にならぬよう、肩から飛び降りる私。
 私の意志を察したのか、かかさまは優しく微笑むと、穢れの群れを見上げ、端正な唇を開く―――。





不浄に憑かれし、哀れな魂よ





 シャオン―――。

 かかさまの髪飾りが鳴る。
 空気すらも切り裂くような、高い高い、清浄な音。
 普段鳴る事のない髪飾りが奏でるその音は、まるで……かかさま自身の何かが、変化した合図の様にも感じられて。






その姿、直霊の姿にお祓いしましょう。

 神威――――――“確たる調べ”







 ウオッ――――――!


 刹那。
 かかさまの声に応じて、放たれる巨大な気配。
 音のない世界はその気配に切り裂かれ、突如としてかかさまの色に塗り潰される。

《オ オオ ォォォ…………》

 恐れ慄く穢れの群れ。光なき光に怯えるように、浮かび上がりかけた姿を影の裡に隠す。
 ああ、その気持ちを私は理解できる。
 目の前にいる、かか……ううん。

 “神様”は、あまりにも凄かった。


 その背に立ち上がった、圧倒的な気配。
 その威は見るもの全てを圧し、平伏させる霊妙さを持ち。
 何よりも―――“見えない”のに、見えるものなんて比較にならない存在感を持っていた。

 それはもう、“神の威”って言葉以外では説明できない、圧倒的な何かだ。


「………おお………おおおおおおおおおっ!!」


 雄叫び一つ。踏み込みと同時に、右腕を振るうかかさま。
 距離は離れている。届くはずのない大振りの一撃……けれど。
 その一撃は周囲の樹木をへし折りながら、影のいる地形を―――吹き飛ばした!

《ギアアアアアアアアアアアアアア――――――!!》

 吹き荒れる衝撃波。そして破壊。
 メキメキとへし折れる木々と共に、上がる悲鳴の数々。
 その圧倒的な初撃に、取り巻いていた穢れの群れは怖気づく。


「さて、いきますよ。道を示しなさい、響」
「は、はいっ!」

 振り返りもせず一言言い放つかかさま。
 群がる穢れを視界に収め、かかさまと私は救うべき誰かを目指し、一歩を踏み出した。





コイムスビ-神様と一緒- 響その14。
神威。神足る由縁。





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