■コイムスビ-神様と一緒-
■―――響25:専門家



「ふや〜〜〜〜」

 夕日がさんさんと輝く山の向こう。
 朱の光に照らされて、山頂で伸びている私。
 本日もぼっこぼこ。勝負になりませんでした。

「なあ響坊よ」
「なんでしょーか……」
「お前、座布団好きか?」
「なにそれ」
「綿を布に詰めて敷物にした奴だ」
「それは、なんかよさげな」
「んじゃ案山子から座布団に進化な」
「人の形すらしてないし!?」

 むしろ退化な気もするし!

「考えない奴には手も足もいらん。
 考えちゃー余計な事考えて、考えるな言うと本気で何も考えねえ。
 クラゲかお前は、いや座布団」
「クラゲでもないし座布団でもないー!」
「んじゃ案山子なりの頑張りを見せろよ……。
 こっちも怪我人なんだからよー、苛めるのだってしんどいんだぜ?」
「じゃあ苛めなけりゃいいじゃない……」

 ほっぺを膨らませて転がる。
 ほんとわけわかんない。怪我人なんだから寝てればいいのに、わざわざ起きてきて散々ぽこぽこぽこぽこ!

「早く直して出て行っちゃえばいいんだー!」
「おやおや、怒鳴る元気が残ってるところを見るとまだ叩かれ足りない?」
「ひい! もう勘弁ー!」

 うぐぐ、何処の神様だか知らないけれど、酷い神様もいたもんだ。
 こんな人に治められている神域は大変なんじゃないだろうか。

「そういえばさー……」
「あん?」
「ひょえーって何処の神様なの?」
「は? 何処の神様?」

 見ると目を丸くしている兵衛。
 何か変な事聞いたかな。

「何わけのわかんねえ事言ってんだ座布団」
「響ですー! 猪神の響!
 ワケわかんないこと言ってない!」
「わけわかんねえだろ。なんで俺が神様なんだよ」
「………?
 神様じゃなければなんなの?」
「そりゃ………」

 何かを言いかけて唐突に口を噤む兵衛。
 少し黙るようにと口元に人差し指をあて、あたりの様子を伺う。

「おい響坊、この山………獰猛な熊とかいるか?」
「え? ううん、みんなそれなりの戒律を守って………。
 ―――!」

 そこで私も気付いた。
 妙だ。動物の気配がしない………ううん。動物の気配が、弱い。
 いままで、こんな風に静かなお山は見たことが無い。何か起こってる。

「んじゃもう一つ質問だ。
 動物じゃない動物(・・・・・・・・)は………いるか?」
「え?
 それってどういう………」

 言うが早く、兵衛は持っていた杖をブンと振って具合を確かめている。
 ちっ、と舌打ち。視線を私に走らせると。

「おい響坊、俺の祓具(ハラエノグ)……持っていた刀、何処にある?」
「へ? 刀……ああ、アレ」
「何処だ?」
「境界地の……奥です」
「は?」
「ひょえーが倒れてたところ。とっても遠いところ」

 それを聞いて汗が一滴、兵衛の頬を伝う。
 頭を振って頬を叩くと、杖を手に立ち上がる。
 体の具合を確かめるように足を強く踏む。

「ぎっ……」
「ひょ、ひょえー!
 駄目、怪我してるんだから」
「気合でなんとかする。
 いいから家に帰ってろ。とーちゃんいるなら知らせてこい」
「ととさまは出雲です」
「……ぬぐ、一人かよ……」
「ひ、一人じゃない! 私がいるよ!」

 どんと胸を叩いて立ち上がる。
 かかさまがいない間、お山を守るのは響のお役目!
 お客様に任せては置けません!

「帰れといったろ。
 ……この気配はちいとあぶねえ」
「な、なにを!
 私の住んでるお山を、お客様に任せるなどもっての他!
 これは私の仕事なの!」
「………仕事、仕事か。
 それだけ言うんならこの山には詳しいんだな?」
「そりゃあもちろん!」
「うし、んじゃ案内を頼む。ただし“何かあったら”俺の指示に従え」

 ぶっきらぼうに言い捨てると、足を引きずりながら歩き出す兵衛。

「なななな! なにさまー!?」
「俺様だおちびちゃん。
 黙って言う事聞いてな」
「むむむ………なんの権利があって!」
「プロさ」

 振り向き、にやりと笑う兵衛。

「ぷろ?」
「怪獣退治の、専門家さ」





コイムスビ-神様と一緒- 響25。
怪獣退治の専門家。
唐突に山に現れた不穏な気配。その原因をめざし、二人は走り出す。


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