■コイムスビ-神様と一緒-
■響23:理



「響ー、夕餉が出来ましたよ」

 夜。洞窟で伸びているとかかさまのお声。
 ぱっと飛び起きてなんでもないかに装う。
 うー、頭痛い。

「あら? なんだか顔色が悪いですね」
「あやっ!? そそそ、そんな事無いですよ!」
「また訓練ですか? 無茶はだめですよ。私が付き合って上げられればいいのですけれど」
「やや、かかさまのお手を煩わす事では!」

 ぶるると肩を震わせ笑って応じる。
 ととさまが訓練のお相手をしてくれない時、かかさまに代わってもらった事があるんだけど、
その時のことを思い出して血の気が引いた。スパルタとかそういう話じゃないあれは。

「それではいただきましょうか。
 ……お空に居ます主様、山のたましい四魂様。卓に並んだ全ての魂よ。
 今日もわたくし達を生かしていただき、ありがとうございます」
「あるじさま、四魂さま、今日のご飯たち。ありがとうございます!」
「いただきます」
「いただきます!」

 食膳のご挨拶をして夕餉に手をつける。
 良く運動したせいか、ご飯がとっても美味しい!

「あらあら、いつにも増して食欲旺盛ですね。
 調子悪そうなのに元気な事」
「何をするにも元気じゃなければ始まりませぬから!」

 いっぱい力つけて明日に備えないと。
 このような虐めは一刻も早く終わらせるのだ!

「くすくす」
「は、いかが致しましたか?」
「なんだか楽しそうですね」
「はああ〜!?
 私が楽しそうにみえると!?」
「え、ええ」

 私の過剰反応にちょっと身を引くかかさま。
 痛くていらいらばっかりなのに楽しいなんて、それじゃ変態じゃないか!

「訓練楽しくないのですか? それにしては気合が入っていますが」
「あああ、やや! た、楽しいですとも!
 自分でやっていることですゆえ!」
「……? どんな訓練なのですか?」
「ああ、ややや! ええと……」

 なんと答えたものか。ううむ……。

「体当たり……体当たりの練習なのです!
 それでもう頭をいっぱいぶつけて痛い痛いなのです」
「体当たり? あらあらそれはまあ……。
 響も猛様の言っていることが判ってきたのですね」
「はい? はあ……」

 ととさま?
 ああ、ととさまも体当たりの事に関してたくさん仰られていた。
 曰く獣は武器とりて戦うものでは無い。故にその体を如何にして武器に代えるか云々。

「うふふ、あの人は教え下手ですから伝わっているものかと不安でしたが。
 頑張って練習するのですよ」
「ええと……?
 な、なにか違うのでしょうか、今までと」
「はい? 体当たりの練習をしているのでしょう?」
「え、ええと。 そ、そうなのですが……」

 うぐぐ、誤魔化したばっかりにこのザマですよ!
 でも、なんだかこの話ここで終わらせちゃいけない気がする。

「今までの私はどう見えておられましたか?」
「そうですね、猛様の真似ばかりをしているように見えていました」
「は、はあ……。
 そりゃあととさまに戦い方を教えていただいているのですから……」

 ととさまのように突っ込んでくる私を払う様に腕をぶんぶん。
 蹴りをえいえい。踏み込んでえいやーとぶちかまし!
 重くて強そうな体の使い方は憧れなのだ。

「その辺りが教え下手な所なのですが。
 猛様の真似をしても強くなれませんよ」
「え、えーーーーー!?
 なんですと、それはいかがなーーーー!?」


 なんか衝撃発言が来ましたよ!?
 今までの私の練習は無意味ですか!?


「それで体当たりの練習をしているのではないのですか?」
「うえっ!?
 そそ、それわその……」

 そんな練習しておりませんし!
 体当たりの“イメージ”で突きや蹴りの練習をしていただけですよ!

「………?
 何か、隠し事をしていますか、響」
「ややややや!
 なな、何を仰りますかかかさま!?」
「ふふ、響も隠し事をするようになりましたか。
 かかさまはなんだか嬉しいですよ。少々良い子が過ぎるようで不安でしたから」
「そのように微笑まれましても逆に怖いのですが……。
 そ、それより何故強くなれないのですか!?」
「私達の戦い方に型はないからです」

 ………型?

「武道における技法伝授の形式ですけどね。
 最も効果的な体の使い方を所謂“技”としてまとめたものが型と呼ばれます」
「は、はあ………。
 うまい体の使い方ってことですか」
「はい、その通りです。
 ですが、私たち猪神には古くから型が無く、また必要ありませんでした。
 それが何故だか………判りますか?」
「え! ううむ……」
「ふふ。それこそが猪神の理であり、響の欲しい答えでしょうね」
「猪神の……理」

 ごくりと喉を鳴らす。
 かかさまのお言葉は核心的で好奇心をそそられます。
 俄然興味がわいてきて、ちゃぶ台の上に身を乗り出す。



「まあそんなところでしょうか」



 と、その熱意をひょいとかわすようにおイモを食べるかかさま。
 思わずちゃぶ台に突っ伏してしまう!
 
「終わりですかーーーーー!?」
「終わりです。折角の夕餉が悪くなってしまうでしょう」
「そ、そんなぁ〜! 酷すぎますスパルタすぎますーー!」

 ばたばたと腕をばたつかせてかかさまの方に身を寄せる私。

 
「―――!」


 すると、びっくりしたように身を引くかかさま。
 ………あれ?

「かかさま?」
「ほ、ほら。遊んでいないでご飯を食べなさい」
「は、はあい」

 納得いかないながらも夕餉に戻る私。
 ちょっと寂しい。あんな風に避けられたのって、初めてだったから。





コイムスビ-神様と一緒- 響23。
猪神の戦い方について。


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