約束の日は、明日


狭い部屋。並べた布団に寝る二人。

「ねぇ………士郎さん」
「…………ん?」
「そっちに行ってもいいですか?」
「え?
い、いや………恥ずかしいだろ?」
「恥ずかしいですけど……恥ずかしいから行きたいんです」
「……それってなんかおかしくないか?
恥ずかしいからやりたくないもんだろう普通は?」
「うう………駄目ですか?
くすん……」
「げ。
ちょっ……桜、それずるくないか?
むむ……」
「ぐすぐす……」
「……はぁ。
やっぱ桜も遠坂の血統だよな……。
………ほら」
呆れたような顔をして自分の布団を持ち上げる士郎。
「えへへ」
そこへころころと転がって入り込む桜。
「全く……。困った桜だな」
胸のうちで自分のポジションを探す桜にため息をつく。
二の腕枕に頭を落ち着けると、悪戯っぽい目をして
士郎を見上げる桜。


「えへへ……ね、士郎さん」
「ん?」
「私……きっと明日から……もっともっと
困らせちゃいますよ?」
「そうなのか?」
「そうです」
「そっか……それじゃしょうがないな。
存分に困らせてくれ」
「はい、困らせちゃいます」
そういうと顔を見合わせてくすくすと笑いあう二人。
「………明日だな」
「はい、明日です」
「明日からだな」
「はい。明日からです」
桜の肩を強く抱く士郎。
幸せそうに目を細める桜。



はじめて会ったときから、幾年もの歳月が過ぎて。


苦しい事も悲しい事もたくさんあったけど。
その全てが、いまこうして君を抱く幸せに繋がっていく。
生まれた時に抱いた夢はたしかに形を変えたけど。
それが君の笑顔を守れることに繋がるのなら、これ以上なんてないのだ。
衛宮士郎は一本の刃。夢を貫くその意志の強さは
その生き方が育んできたものなのだから。

―――衛宮士郎は夢を見る。
愛する人を守り、生きていくことが今の彼の夢。
その思いが、この体の朽ちるその日まで。
ずっとずっと、続きますように―――。



その約束の日は、明日



士郎の結婚前夜編その10。最終回。
英雄になれなかった男が選んだ道。
それは物語に存在しない未知の未来。

普通を貫くにはあまりにも異質な彼らだけれど……。
それ故に、約束しよう。
いつまでも続く平穏な日々を、
ずっとずっと、君と一緒に歩いてゆくことを。