友人たちと


「―――げ、遠坂」
「あら、柳洞くん」
柳洞一成は居間に上がってきた途端に
この世の終わりのような声を出した。
「おい柳洞、邪魔だぞ……お、遠坂。
遠坂じゃないか。帰ってきてたのか」
固まる一成を横にどかして居間に入った美綴綾子は
懐かしい顔に声を上げる。
「久しぶり綾子。
………で、その後どうよ?貴方の方は」
「……うわー、まだその勝負続いてんのか?
あんたはどうなのよ」
「さーて?」
笑いあいながら親交を暖めあう二人。
「こんにちはー」「どもどもー」
その後に桜の後輩であった元弓道部の面々が続く。
「藤村〜まだひとりでやってるのか〜」
「うわっち、オトコー!あ、おやっさんもこんちはっす!」
「しかし大河ちゃんかわんないねぇ。
いつも唐突なんだから。
少しはこっちにも顔出してよー」
「えへへ、すんません。
まあ今日は士郎の料理楽しんでってくださいよー」
藤ねぇの方もコペンハーゲンの方々と親交を温めていたりする。



今日は衛宮家の庭を使っての大宴会だ。
普通そういうものは結婚式の前ではなく後にやるものなのだが
「後にもやるんなら前にもやりたい」
と若干一名、この飲み会を強硬に推し進め
既成事実にしてしまった虎がいた。
はじめは内内だけで、ということになっていたのだが、
藤ねぇを慕う人や
各人の友人関係などいつのまにやら大人数になっていて
家に収容しきれなくなった故に庭でやる、と言うことで落ち着いた。

ちなみに酒や飲み物に関しては
コペンハーゲンの親父さんがロハで出してくれるという
とんでもない気前のよさで成り立った会である。
親父さん曰く
「士郎くんにはさんざん世話になったからね」
ということらしい。
料理は昨日の内に仕込みは済ませてあり
あとは机やイスをセッティングするだけという状態だ。



「よっしゃ、じゃあセッティングしちゃうか」
「衛宮、俺も手伝おう」
「お、ありがたい」
そういって腕まくりをしてついてくる一成。こうして肩を並べて
歩くのもずいぶんと久しぶりである。

―――柳洞一成。
現在柳洞寺の跡継ぎとして仏事に関わっている。
そのせいか既に頭は丸坊主。言動だけではなく身なりも雰囲気も
僧侶のそれになってしまった感じである。

「しかし衛宮よ、何故あの女狐がいる」
「―――は?」
「たわけ、は?ではないわ。
あのような仏敵、晴れやかな結婚式に呼ぶなど気が知れぬ。
一体どういう繋がりなのか言ってみろ。
事の次第によっては成敗してくれよう」
意気込んで提案してくる一成に士郎は疑問顔で答える。
「遠坂って桜の姉さんだからな。いて当然だろ」
「…………なんといった?」
「え、だから遠坂は桜の姉さんだって」
ふらりと、よろける一成。
「き、聞いておらんぞ!どういうことだそれは!」
「聞かれなかったからな。どういうことだも何もそういうことだよ」
「な、南無阿弥陀仏……この世に神はおらぬのか……。
悪鬼の類と如来が姉妹であるなどと……」
相当のショックだったようで、ふらつく足元を御しきれない一成は
よろよろと士郎の後を付いてくる。
「お、おい一成、大丈夫か?無理して手伝わなくてもいいぞ?」
「す、すまん……少し頭を冷やしてくる………」
ふらつく足取りのまま母屋へと戻っていく一成。
「なんだかんだ打たれ弱いんだよなぁ、一成。変わってないな」
くく、と笑うと土蔵へ向かう士郎。


途中、台所の見える勝手口に視線をめぐらす。
そこでは凛、美綴と一緒に食事の支度をしている桜が
忙しそうに立ち回っていた。

―――なんとなく、その風景が遠いものに見えて。

慌てて頬を叩く士郎。
『まったく、なに弱気になってるんだ衛宮士郎。しっかりしろ』
言い聞かせるように
続けて二、三度頬を張るといつもの精悍な顔つきに戻る。
「………よし。何があったんだかわからないけど……。
ちゃんと話そう。桜と」
そう決意すると士郎は土蔵へと歩き出した。



士郎の結婚前夜編その6。
友人たちと。