時間は流れて
「あ、士郎。おはようー」
「おはようございます」
士郎と桜が居間に入ると
テーブルでお茶を啜っていた二人が挨拶してきた。
「おはようございます、藤村先生、ライダー」
「おはよう二人とも。今朝は随分早いな」
「まあさすがに今日はちゃんとしないとねー」
そういう藤村大河―――藤ねぇは
黒のスーツにブラウスといういでたちである。
普段着以外の格好をすることが珍しい藤ねぇにとっては
ずいぶんと稀有な様相だ。
「あ……私も出かける準備してきますね」
その格好の藤ねぇを見てはっとする桜。
幾分か緊張した面持ちになると、踵を返して居間から出て行った。
「んーー。
桜ちゃん随分緊張しているみたいねー」
「親父のところにいくのも
もう慣れてきたと思うんだけどな」
ポリポリと頭をかきながら桜の出て行った
居間の扉を見て言う士郎。
「……馬鹿ねー。
明日の事報告しに行くんだから緊張して当然よ。
まったく……。
士郎は相変わらずニブチンなんだからお姉ちゃん心配だぞ」
「………む。
藤ねぇににぶちんとかそういうこと言われる筋合いはないぞ」
「?
なんでよー。事実でしょ?」
疑問顔の藤ねぇに士郎はニヤリと口元を歪めて言う。
「……行き遅れ(ボソ)」
「き、貴様ーーーーーーーーー!!!!
貴様は今、言ってはならんことを言った!
そこに直れ!」
「30目前にして悪戯に精が出る大人にゃ分相応だろ!
昨日の夕飯パーにされた恨み、今ここで晴らしてやる!」
新聞紙を丸めた剣で殴りあいを開始する二人。
「差別発言だーーーー!
女の敵め!」
「うっさい!
食い物の恨みを思い知れ!」
「おまたせしました……て……。
もう、先生も士郎さんも朝から駄目ですよっ!」
居間に戻ってきた桜は慌てて二人を止めに入る。
「もう、ライダーも見てないで止めて!」
一人難を逃れてお茶を啜り、傍観するライダーを
咎める様に睨む桜。
「……命令とあれば止めますが、サクラ。
それには及ばないかと。
私もここで彼らを観察するようになって長い。
この一幕はどうやら二人にとっての親愛表現なのではないかと
推測します」
「「え」」
ライダーのその一言に毒気を抜かれたのか停止する二人。
ゆっくりと顔を見合わせて
「あー………大人気なかったよ、藤ねぇ」
「……そーね、スーツシワシワになっちゃうし
そうなったら切嗣さんに合わせる顔がなくなるし……。
ひとまず停戦にしておいたげる」
二人は剣を収めた。
「……………。
ライダーも、少し変わったね」
「そうですか?」
そうして、聖杯戦争の時には決して見せなかった
笑顔で微笑むライダー。
「それじゃあささっと朝飯片付けていくとしようか。
夕方にはみんなと会う予定もあるし
あんまりのんびりしてもいられないだろ」
「そういえば……遠坂さんは?
たしかお墓参りには一緒に行くとか連絡があったんじゃ
なかったっけ?」
「えーと……。
電話の話では昨日にはこちらに着いていても
おかしくないんですけど……。
それ以降、連絡ないんですよね……」
「………ま、遠坂のことだ。
大丈夫だろ。じゃあやるか」
「はいっ!」
そういうと二人はキッチンに向かう。
―――明日に迫った二人の式を報告する為に。
四人は衛宮切嗣の墓参りへと向かった。
士郎の結婚前夜編その2。
大切な人が出来たこと。そのことを
一番大切だった人に報告したくて。
四人は墓参りへと向かう。