自己の救済


「ぷいっ!」
「ううー……」
「………二人とも。
いい加減に許してくれんか。これではなにも出来んよ」
「……ゆるさないもん」
「やくそくしました。だから、はなしません」
「いや、確かに約束はしたのだがこのまま石像の如く
動かないでいれば食事も出来ないではないか。
そこのあたりどうなのかね御両人」
「………(ぐーー)」
「………(きゅるるる)」
「クッ………!」
「わらうなーーーーーーー!
だれのせいでこんなになってるとおもってるのーー!
はんにちもかえってこないで……
ほんとにどっかいっちゃったかとおもって……
……ばかーーーー!」
「どっかいっちゃうならはなさなければいいんですっ!
だからだめですっ!」
「……む。………ふぅ。
ではどうすれば離してくれるのかね?」
「…………。
ずっといっしょにいてよ」
「せいはいが”ばんのうのかま”だとするのなら
あーちゃーさん……いつかきえなくても……」
「……それは……駄目だ。
第一”あの聖杯”には君たちの望む様な
能力など……無い」
「じゃあはなさないっ!」
「だめですっ!」
『あ゛ーーーー……
どうしたらいいのだ……。
万人の救済……か。どこまで行っても世迷言。
こんなに小さな二人の心ですら救えない私がなにをほざく。
―――いや。
私が私自身を救えない。だから彼女たちはこんなにも
私をこの幸せの場所に……ひき留めようとするのだろう。
――前提から間違っている。自身を救えない者が。
他の誰かを救えるはずがあるものか……。』

そうして二人が根を上げるまで
英雄は子供たちのためだけに頭をなで続けるのだった。


家政夫と一緒編。
いつだって繰り返してきた矛盾への問いかけ。
だがその答えは案外シンプル。
結局、真の救済とは………人の心を救うこと。
だから英雄は人を救えない。ゆえにひとりぼっち。
この心に、この道に。掴む幸せなど無い。
我を満たすのは顔も知らぬ人々の、それぞれの家族に向けられた
笑顔だけ―――。
だから……英雄自身が。自身を救うことはありえないのだ。
英雄とて。どんな志を持とうとも人なのだから。