魔術と人と


「じゃぶじゃぶ♪ごしごし………」
「しゅーかんかすると、うがいもてあらいも
なんかきもちいーものね!」
「ああ、そうだろう」
「でもさ、あーちゃー。さいきんのてっていした
このよぼうへのこだわりはいったいなーに?」
「坂を少し下ったところに住んでいる坂下さんや鈴木さんの家の
お子さんも風邪を患っていてな。
どうも性質の悪い風邪が流行っているらしい。
これは彼女達との意見交換の成果とでも言うべきか。主婦は偉大だよ」
「………。
あーちゃーってさ、まえじぶんのこと、まじゅつしだっていってたよね」
「少し違うな。魔術使いだ」
「まじゅつつかいかー。
あーちゃーがきてからさ、このおうちなんていうか………
けっかいがよわってるようにかんじるんだけど………」
「む………馬鹿を言うな。私の守護があってどうして結界強度が低下するというのだ」」
「うーん………えとえと、なんていうのかな………。
おとーさんがいたころはさ、いっちゃうと
―――ちかくされつつも、いしきがいにある―――
ひとばらいがきっちりきどうしててね。
とおさかのおうちには、だれもちかよろうとしなかったんだ」
「ああ、だろうな。この家はそういった結界以外にも
いくつもの攻性結界を擁する強力な要塞でもあるしな」
「だけどさー、あーちゃーがきてから
おにわはあかるくなるし、あらいわさんはおいしいデザートもってきてくれるし、
いどばたかいぎ、おうちのまえでしてるじゃない?あーちゃー」
「ぬ………。
よくよく考えると何をしているのだ私は………。
すまなかった。私の不注意だ」
「あっ………ちがうのっ。
えと、なんていうか、その………」
「ぷるぷるっ。
ねーさんのいいたいこと、わかりますよ?えへへ………。
あーちゃーさんにね、おれいをいいたいんですよ」
「………は?
何故だ?私の行いは拠点としての防衛力を低下させてしまうものだ。
叱責もやむをえまい、何故礼など………」
「………もしかしたら。
まじゅつしとして、なんかまちがってるのかもしれない。
それでもね………。
わたしはこういうの、とってもきもちいいなって、おもうんだ」
「わたしもそうおもいますっ!」
「………ふむ。
―――では改める必要はないと?」
「ぜんしょをきたいするっ」
「………ふ。
了解した、マスター殿」



家政夫と一緒編。
魔術師にとって門を閉ざすということは
人の理を受け入れないということ。
門より内は異界。ゆえに人と交わらない意を示す。
魔術使いは自由だ。彼らは工房を持たず制約を持たず
己の気の向くままに旅をする。
彼らの世界はいつだって開かれている。
だから彼の父親はいつだって彼に
自由でいてほしくて魔術師にはしなかったのではないだろうか。