この道の、果て。

今日はクリスマス。
桜と一緒に新都に遊びに出た。
ネオンライトが彩る冬木の街はとても幻想的で楽しくて・・・。
気が付くと、もう夜の帳が下りていた。


「すっかり遅くなっちゃったな・・・。うーさむ・・・」
「もう真っ暗ですね・・・。帰ってお茶でも入れましょうね。
藤村先生とライダーにもこのケーキ食べてもらいたいですっ」
「そうだな〜・・・藤ねぇ今日一日ほったらかしだからなぁ・・・。
ライダーの分まで食っちゃうかもな?」
「くすくす・・・そうですね・・・。」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「・・・なぁ桜」
「・・・はい?」
「今日一日デートだったけどさ・・・。その・・・
あーなんだ・・・俺クリスマスなんてこと失念しててさ。
遠坂から電話で怒鳴られるまでその・・・アレで。
なんにも用意できなくて・・・ごめんな」
「でも先輩その後いろいろなところに連れて行ってくれましたよ?
こんなに遊んだのなんて、私、初めてなんですからっ」
「・・・俺、金もなくて・・・。まともなプレゼントも桜に渡せてない。
・・・みっともないよな。こんなんじゃ・・・
はぁ・・・・。」

自分の不甲斐なさに反吐が出る。
桜を守るって決めたんだ。
それなのに俺は未だにろくな稼ぎも出来ていない。
・・・まあ食い扶持が多いことは確かだが。
・・・それでも。
金で苦労をかけてしまうのはやっぱり情けなかった。
こんな日にも桜が喜ぶプレゼント一つ渡せないなんて・・・。

「・・・・・・。
・・・先輩。そこのベンチに座りませんか?」
そう言うと桜は俺の腕を取ってベンチに引っ張る。
「と・・・。・・・・???」
「ふふ・・・はい先輩」
桜は自分のマフラーの片方を取って、俺の首に巻きつける。
「えへへ・・・このマフラー、先輩が始めてのお給料で買ってくれたものですよ?」
「ああ・・・。
俺女の子に何あげて良いかわかんなくてさ。
遠坂に笑われたな〜。あんた自分で作ったほうが
もっとすごいのできそうなもんだって」

その頃のことを思い出し苦笑する。
だってこれだけは譲れない。
初めての給料は絶対に桜に何か買ってやるって、決めていたんだ。

「これから寒くなるから桜が体壊さないようにって
くれたこのマフラー。とっても嬉しかったんですよ?」
そういうと俺の腕にギュっと抱きついてくる。
「・・・・・・」
「先輩は・・・みっともなくなんかないですよ」
「・・・・え」
「・・・誰よりも一生懸命で。
誰よりもかっこよくって。
そして・・・誰よりも。私なんかのこと・・・一番に見てくれます。
真っ直ぐ、私があこがれた・・・あの頃の眼差しのままで。
この気持ちも、思いも。届かないって思っていました。
だから・・・。
そんな眩しい先輩の隣で、こうしていられることは・・・私にとって。
夢でしかなかったんです」
「〜〜〜〜〜」

―――赤面しているのが、わかる。
いつだって一生懸命に俺の事を見てくれる桜だけど。
今、俺を見つめてくるその瞳は・・・桜が語る俺の姿以上に。
一点の曇りだって、なかった。

「だから・・・。先輩が私のこと、夢だって言ってくれるように・・・。
私にとっても先輩は。先輩と一緒に歩くことが一番の幸せで・・・。
それ以上なんてないから」
「・・・・・・・」
「だから・・・・。
こうして一緒にいることが。
いつだって最高のプレゼントなんですよ、先輩・・・っ」

呆れるほど・・・無欲で。
真っ直ぐな思い。

でもそれはやるせなくって・・・。
―――あの日見たあいつの背中に。
良く似ていた。

「・・・・・・。
もっと欲張ったっていいんだぞ?」
「それは先輩にお返しです。
それに・・・私は先輩に関してはいつだって欲張ってますよ?」
「・・・もっと高望みしたって良いんだ」
「それもお返しです。
私なんて先輩にも姉さんにもいるだけで迷惑かけてますから・・・」
「っ・・・。
馬鹿野郎。俺が桜と一緒にいたいからいるんだ。
俺にとって桜は一番だ」
「・・・えへへ。
私も・・・おんなじです」
「〜〜〜〜〜〜。
くそ。桜には・・・勝てないな。
やっぱり桜は遠坂と姉妹だよ・・・」
嬉しそうに微笑む桜。
苦笑いする俺。
―――その時。

頬に冷たい感触。


「あ・・・・」
「雪・・・・・・」

真っ暗な冬の高い空から、たくさんの雪が降ってくる。
今年は年明けまで雪は振らないと、予報で言っていたから・・・。
・・・まるでそれは。

「奇麗・・・クリスマスプレゼント・・・」

そう。
天からのクリスマスプレゼントのようだった。

舞い落ちるそれは、不甲斐ない男に呆れた神様の手助けのようで・・・。
何も贈れなかった俺は、情けない気持ちになってしまう。
そんな俺とは対照的に空を見上げる桜の顔はとても嬉しそうで。

―――なんだか。
神様に桜をとられたような気がして。
なにもせずにいるなんて、出来る訳無かった。


「桜」
「・・・え?」
「・・・その・・・俺さ。
近いうちにもっともっと稼げるようになってさ。
一人前の男になって、お前のこと守れるようになるから・・・!
その・・・。その時は・・・俺と。

結婚しよう。」

『―――言った。
言っちまった!!!』

俺のことを見返す桜の顔は驚きで一杯で。
それが眉を寄せて涙をためた時には、もしかして断られるかもとか
不安になって。
それが・・・嬉しい涙だって気が付いた時。

俺の中に、もう弱い気持ちなんて。
なくなっていたんだ。

「はい・・・・。
嫉妬深くて・・・駄目な私ですけど・・・。
私も先輩と・・・士郎・・・さんと・・・
ずっと一緒にいたいから。


結婚して・・・ください」

嬉しそうに・・・。桜はそう、答えてくれた。





遠い遠い、冬の空の向こうで。
俺の事を見ているか?アーチャー。
俺は、俺の戦いに・・・なんとか勝てたみたいだぞ。
お前が選べなかった戦いで・・・俺は結果を残せたぞ。

これでお前に勝てたなんてまだいえない。
だけど・・・俺たちはどこかに進んでいく限り。
いつかきっと・・・「勝てる日」が来るはずだ。

だから、大嫌いなお前だけどさ。今言うよ。


―――負けるなよ。
いつか勝てる・・・その日まで。

俺は、この命が続く限り。
すっとずっと・・・桜のことを。
守って見せるから。