旅の途中

「ねぇあーちゃー、むかしばなしして!」
「・・・ん?そうだな・・・。
あるところに頭の悪い男がいました。
その男は自分の手で誰一人不幸せにすることなく
皆を笑顔に出来ると信じて旅に出ました」
「いいひとだねー」
「どうかな?・・・ですが男が一人幸せにするたびにどこかで誰かが
泣いてしまいます。どんなにどんなにがんばっても
絶対に誰かが泣いてしまうのです。男は悩みました」
「・・・・。なんかかわいそうだね・・・」
「・・・男は自分の力が足りないのだと思い、
”自分の事はどうでも良い、だからみんなを笑顔に出来るだけの力が欲しい”
と、神様に祈ったのです。
男は願いがかなって大きな力を得ました。
けれどたくさんの笑顔を守る代わりに
もっとたくさんの泣く人が生まれてしまいました」
「ぐすっ・・・かわいそうだよ・・・」
「ん・・・?(なでなで)
・・・・・。
・・・・・でも男は何も後悔などしませんでした。だってその力で
笑顔になってくれた人たちは男に一杯の笑顔で笑ってくれたから。
・・・いつしか男はその笑顔をみたいから旅を続けるようになりました。
男は頭が悪いからそれだけでどんなに辛くてもがんばれてしまうのです。
遠い空、いまでも男は旅を続けています。
苦しくても辛くても
その手につかめる人たちのほんの小さな幸福と笑顔を守るために」
「・・・そのひとは・・・いまでもしあわせなのかな・・・」
「・・・ああ。幸せだ。
君達のこんなに素敵な笑顔を・・・
そいつは守れているんだから、な。」