Last epilogue



―――ドクン。



「………あ」
「………あっ」

感じる鼓動に慌てて目を覚ます。
体の中の生命力を殆ど持っていかれたような、強い虚脱感。

「ね、姉さん」
「………うん」

無くなったのは魔力。桜も感じたという事は……。

「大丈夫か!? 酷くうなされていたが………」
「切嗣さん………アーチャーが!」
「アーチャーさんが………!」
「え………本当かい!?」

体の中にある明確なラインは、あの日々の中で確かにあった
私たちとアーチャーを繋ぐ絆、そのもの。


帰ってきた、アーチャーが………帰ってきたんだ!


「アーチャー!」
「アーチャーさぁん!」
「と………。はは、仕方が無いな」

席を立って駆け出す私たち。その後を追うように杖をとって歩き出す
切嗣さんだけど、今はごめんねっ。待ってられない!
教会の回廊を抜けて、地下礼拝堂へとひた走る。
そうして辿り着いた礼拝堂の中は濃密な魔力が満ちていて、
ここで行われた魔術の高度さを物語ってる。
息を切らして駆け込んできた私たちにびっくりして振り返る父さんたち。
私たちの様子を見ると、みんなは儀式の成功を確信したのか
表情を和らげ肩を叩き合う。

その光景は、魔術の世界では本当に稀有な―――
力を合わせた者達が互いの持つ力と知識を讃えあう素敵な光景だった。

「と、父さん、アーチャーは!?」
「アーチャーさんはっ?」
「息を切らしてはしたないぞ、凛。
そんな事では“彼”に笑われてしまう」
「あ………じゃ、じゃあ………」
「儀式は成功した。アーチャーは………帰ってきたんだ」

アーチャーが眠っている扉の奥。
強い強い魔力の昂ぶりを感じる。
会える、ようやく会える。アーチャーに………会えるんだ!


「いってきなさい。礼儀を忘れずにな」
良かったのぅ………Era buono……….そら、行ってきなさいVada da lui.
「………ふ。ドジを踏まないように祈っておこう」
「いってらっしゃいませ」
「ふぁいとだ」
「……ふう。そら、行っておいで」
「ほらー、早く行った!」


イリヤに押されて半歩前に出る。
少しドキドキする。ああ、最初に何を言おう。
うーん、うーん。


「ほら、姉さん行きましょう!」


桜が私の手をとって歩き出す。むむ、覚悟を決めるか。
二人一緒にドアの前に進み、ドアノブに手をかける。
大きく息を吸い込み深呼吸。さあ、行くぞ!



―――そうして、二人一緒に開いたドア。
ここは地下だから、眩しくなんて無いはずなのに、思わず目を瞑る私と桜。

アーチャー、私達の事見てどう思うかな?

可愛くなったなって褒めてくれるかな?
美人になったなって褒めてくれるかな?
素敵なレディーになったなって………褒めてくれるかな!



恐る恐る目を開ける。
目の前にはきっと、待ち望んでいた未来がある。
これから歩き出す、無限の未来がある。



だから、怖がる事なんて何も無い。





さあ―――私たちのアーチャー家政夫さんに………会いに行こう!