無限の剣製



張り出す枝も険しい谷も、アーチャーの進行を止められない。
霊体化し、風の様に山を駆けるアーチャーは、
山腹を駆ける黒い竜に追いつき、攻撃を開始する。

「おおおおおっ!!!」

初弾、偽・螺旋剣による一撃が竜の足に直撃する。
だが、空間を捻じ曲げる螺旋の一撃でさえ
竜の足を吹き飛ばすには至らない。引き裂けた泥の皮膚を
繋ぎ合わせると、何事も無かったかのように再び走り出す竜。

「―――ちっ!」

こうなればありったけの砲火を持って侵攻を邪魔するまでだ。
足を速め竜の歩みを追い越すと、深山の洋館街を見下ろす山頂、
なだらかな丘の上に陣取る。
ここより先はデッドライン、この場所より先に竜の侵攻を許せば
間違いなく人里に被害が出る。

僅かに首を傾け、その先にいるだろう守るべき人達に思いを馳せる。
ああ、負けられない。なんとしても竜をここで食い止め、彼らの未来を守る。
その為に全てを賭けること。それが自分の戦いだ―――!


              
――― I am the bone of my sword.体は剣で出来ている



―――ブオッ!

放たれる莫大な魔力が、舞い降りてくる粉雪を天に舞い上げる。
丘には無形の風が吹き荒れ、積もり始めた雪を蒸発させていく。



Steel is my body, and fire is my blood.血潮は鉄で 心は硝子。
I have created over a thousand blades.幾たびの戦場を越えて不敗




それは世界を騎士の色に染めていく詠唱。
内と外を異なる法則で隔てる結界魔術、その究極に位置する
“自身と世界の法則を切り離す”異界創造法。



Unknown to Death.ただの一度も敗走はなく、
Nor known to Life.ただの一度も理解されない




それは、余人には理解できぬ鋼の志を持つが故に至った魔術。
孤独であるが故に至れる魔術。



Have withstood pain to create many weapons.彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う。
Yet, those hands will never hold anything.故に、生涯に意味はなく




ただ一人、信じた道を行く事でしか得られない剣。
永遠に剣を鍛ち続ける、錬鉄の牢獄。




So as I pray,その体は―――unlimited blade works.きっと剣で出来ていた




ゴオオオオオッ―――ゴオン。



炎が走り、丘が異界に塗りつぶされる。
鉄を鍛つ以外の一切の行為を拒絶するその世界の名は。

―――固有結界“無限の剣製アンリミテッド・ブレイドワークス”。

一人世界の僕となることを選んだ、赤い騎士にのみ表せる心象世界である。



「―――いくぞ」

細く、鋭く眇められた騎士の目が、山肌を駆ける黒い竜を睨みつける。
ここより先は我が世界、絶死の覚悟なくして、まかり通る事は許さんぞ―――!


全錬鉄、連続開放ソードバレル・フルオープン―――!


丘に突き立つ無数の剣が、騎士の号令に合せ宙を飛ぶ。
それは艦砲が放つ一斉射撃の如く、雪の降る空を輝きに染めて
黒い竜へと襲い掛かる。



―――ガガガガガガガガガガ………ゴオオオンッ!!!!



オオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!


竜の体に突き刺さり、業炎を上げて爆発する刀剣。
一つ一つは竜の体に致命打を与えられなくとも、それが十積み重なり
唸りを上げるのならば話は別だ。
竜は自身を焼き尽くす猛烈な破壊に慟哭の唸りを上げ、その場に沈み込む。

「―――どうだ」

丘の上のアーチャーは対する竜を油断無く睨み、状況を見守る。
元より倒せる相手とは思っていない。余裕のある状況ではない今、
目前の敵相手にどれほどの魔力を割きながら戦うのか計算しなければならない。
今の攻撃は残された魔力の15%程。行動を制限できるほどの
ダメージを与えられていればいいのだが。

「………………………!」

しかし山肌で倒れた竜は、濛々と上がる粉塵の中、膝を立て立ち上がろうとしていた。
その結果にアーチャーは舌打ちする。出し惜しみをしているようでは
奴を止める事は出来ないらしい。
荒い息をつきながら体勢を整えると、第二陣を放つために残りの剣に魔力を装填する。
だがアーチャーの感覚は、深い粉塵の中で高まっていく強力な呪力を検知する。

「………ちっ!」


キュン―――バシャアアアアンッ!!


咄嗟に放った剣により両者の中間で弾ける巨大呪力弾。
粉塵の中の竜はその隙に重い体を持ち上げて体勢を立て直す。
赤い光を宿すその眼窩は、立ち塞がるアーチャーを睨みすえている。
どうやら、明確な敵として認識されたらしい。


グオオオオオオオオオオオオオオオッ!!


巨竜は身を震わせて咆哮をあげると、両腕を地面に打ち下ろし、
まるで飛び掛る寸前のような姿勢をとる。
高まる魔力、漂う濃密な瘴気。その気配にアーチャーは総身を振るわせる。
これは拙い――――――!


カッ―――ゴンゴンゴンッ!!!


巨大な顎から放たれる三発の呪力弾。何れも先程の巨大呪力弾と同じだけの
魔力を持つ強力な弾体だ。

「おおおおおおっ!!」

飛来する弾丸を用意していた刀剣を射出する事によって打ち落とす。
弾ける呪力弾が濃密な呪いを周囲に撒き散らし、山の緑は悉く枯れていく。

「………ち」

固有結界によって外界の影響から守られているアーチャーには
呪いの効力が薄いが、一発でも落としそこなえば呪力弾は深山町に着弾し、
多くの命を奪うだろう。

「ならば癖の悪いその顎、吹き飛ばしてやろう―――!」

敵に再装填の隙を許すことなく刀剣射撃を浴びせかけるアーチャー。
竜はその砲撃を打ち落とすために豪腕を振るう。


降りしきる雪を明るく染めて、二つの意思が激突する。
果たして、勝利を得るのは攻守一体、二人のサーヴァントか。
それとも、世に現れようとする“この世全ての悪”か―――。



家政夫と一緒編第四部その40。
雪の夜に熱波を散らし、聖杯戦争最後の戦いが幕を開ける。
両者共に退けぬ理由が在る。
ならばその活路、推し開くしかない。

輝きぶつかる赤と闇。
最後に立って笑うのは―――どちらか。