Last interlude1:光



無限に生まれる呪いの泥が、
流れに逆らい上手へと上る光の玉に殺到する。
だが、この世ならないものを形を得た呪い如きが如何にして
滅ぼせようか。アヴァロンは主の意を受け、泥の大河を進んでいく。

「………」

しかし、鉄壁たる城砦の中
アヴァロンの主たる剣の王は美しい眉根を寄せていた。
アヴァロンの力によって物質世界とは少しずれた次元にいる彼女は、
泥の世界においてその導を見失いつつあった。



―――竜の体内を通り大聖杯を目指す彼女は、
アヴァロンの力によって半霊的存在となり、
冬木の動脈たる、“霊脈”の中へと潜り込む事に成功した。
物理的距離はそう遠くないはずの大聖杯だが、
セイバーが断たねばならないものは、次元面に直接穿たれた孔を維持する
“力”そのものと、その術式に根を下ろすアンリマユ本体である。

竜に力を送る霊脈を辿る事で、いずれその地点へと
辿り着ける筈だったのだが、状況は予想よりも悪化していた。
本来、無色透明な力の流れである土地霊脈。その流れが
黒い呪いの渦によって支配され、完全な暗闇に閉ざされていたのである。

アンリマユの支配力の強さに関して一抹の不安があったことは確かだが、
まさか短期間の間にここまで巨大になり、街の霊脈基点そのものを
覆い尽くしているとは思いも寄らなかった。
これは、アンリマユが真っ当な英雄であるならばありえない事態だ。
恐らく彼の魂は、霊的なエネルギーに対し順応性の高い
概念のような存在なのだろう。
人型というものに対し執着の無い魂ならば、自身という器を
何処までも広げる事が出来る。

彼は霊脈の守り手たる冬木の竜神から、新しい寄り代に乗り換えようとしていた。
次の目標は冬木の土地、即ち“世界”そのもの。
大地に根を張り、この世界に居場所を得ようとしているのだ―――。




泥を蹴散らし流れに逆らい、小さな城砦は流れの中を疾走する。
だが、往けども往けどもその場所は見えてこない。
否、何処にあるのかさえわからない。
それは光の全く差さない箱の中で、感触も匂いも得ることなく
出口を探す行為に似ている。
最悪の場合―――通り過ぎてしまっている可能性すらある。

『………否。近づければその波動くらいは感じ取れるはずだ。
迷うな、アルトリア』

浮かぶ迷いを退け闇の中を進む。
流れが自分を退けようとしているのならば、目的とする場所は
その先にあるはずだ。その流れの道筋だけを間違えないように
進んでいけば必ず辿り着ける。
自らに備わった直感を信じ、セイバーは闇の中をひたすらに進む。


倒すべき敵がいる。
帰るべき場所がある。
そして―――守るべき人達がいる。

だから迷う事など許されない。なんとしても自分達は勝つのだ。


『アーチャー………』

彼は自分を信じ、多くの人を守る盾として今も戦っているはずだ。
最強の剣として、希望の光として。
自分はその想いに応えねば。


『往くぞアヴァロン。
我らには時間が無い。なんとしても敵を討たねばならない』


自分を信じる誰かの想いを背に受けて、
小さな城砦はその速度を増し泥の海をひた走る。
いつかまた出会う、戦友の意思に応えるために―――。



家政夫と一緒編第四部その38。Last interlude1。
騎士は闇を貫く光となり、倒すべき敵の懐へと突き進む。
希望となるのならば、そのあり方に迷いを挟むな。
自らは彼の剣となり、未来を覆う暗雲を―――断つ。

剣兵はひた走る。
自らを救ってくれた不器用な戦友の、刃と成る為に。