決着



セイバーを先頭に泥の腕を倒しながら走る一行。
無尽蔵に生まれる魔腕は攻撃の手を休めない。

「アーチャー、例の策は?」
「いつでもいける。セイバー、君は塔までの正面視界を確保してくれ。
切嗣、この策には早さが必要だ。塔まで行ってもらえるか?」
「足場が作れるのか?」
「ああ。だが接敵の可能性が高い。
アサシンの情報は必要か?」
「………大丈夫だ。アイリスは僕が必ず助ける」

三人は頷きあうとそれぞれの役割を果たすため散開する。

「はああああああっ!!」

地を蹴りクレーターに向かい進むセイバー。
塔には近づけまいと魔腕の群れが襲い掛かる。


勝利すべき黄金の剣カリバーン―――!!


―――ゴオオオオンッ!!!

放たれる光の刃が立ち塞がる闇を切り裂く。
宝剣カリバーンはエクスカリバーと比べると
兵装としての精度、速度、威力共に劣る剣ではあるが、
自然現象に匹敵するエネルギーを開放する聖剣よりも
消耗魔力と斬撃範囲が小さい分使い勝手が良い。
最小出力で光の刃を安定させたセイバーは、
伸びた刃で目前の魔腕を殲滅する。

「アーチャー!」
「ああ。
―――凍結解除フリーズアウト

―――ジャラララッ!!

虚空より現れた銀の鎖がアーチャーの左腕に巻きつき唸りを上げる。
―――対神捕縛兵装“天の鎖エルキドゥ”。
かの英雄王ギルガメッシュが最も頼りにしていた宝具であり、
ウルクを飢饉に陥れた天の牡牛を捕縛したといわれる対神兵装である。

武装でもない兵装を投影したツケか、強烈な痛みがアーチャーの頭を苛むが、
奥歯を噛みその痛みを無理やり抑え込むと、左手を塔に向けて伸ばす。

「天の縛鎖よ!」


ギュオッ―――ジャラララララララッ!!


放たれた鎖は泥の海を渡り、一直線に塔へと伸びていく。
直径十数メートルはあろうかという巨大な塔は天の鎖によってその身を捕縛される。

「対の縛鎖よ!」


ジャラララララ―――キンッ!!


同時に放った逆側の鎖が岩棚に生えた突起を捉え、塔と岩棚を繋ぐ橋となる。
橋の完成と同時に弓を取り身を翻す。道を開けたアーチャーと入れ替わるように
灰色の疾風が鎖の上へと駆け上る。

―――pondus alleviation外圧 抑制elementum tempero因子 制御


―――ヴン―――ダンッ!!


銀の架け橋を陽炎が渡る。
時間にして0.1秒、鎖上を駆け抜けた切嗣は泥の塔へと到達していた。
セイバーが魔腕の群れを殲滅してからおよそ2秒、あまりの早業に、
老人は塔近くに待機させていた魔腕を繰り出すこともできない。


「―――ギ」


だが暗殺者は迷わない。主を守るため、迫る魔術師殺しへと襲いかかる。
赤い光を切り裂きはためく異形の翼は“妄想心音サバーニーヤ”。
初手必殺、悪鬼の魔腕を大きく振りかぶる。

―――elementum tempero因子 制御


―――ヴン―――ジャリイインッ!


「―――ギ!?」

だが、“妄想心音”は鎖上に残された陽炎を切り裂くのみで終わった。
忽然と消えた魔術師殺し。目標を見失ったアサシンは周囲を慌てて見回すが―――


「―――同じ手が三度通用すると思うな」


ドカドカンッ!!

頭上から聞こえる死神の声に気付いた時には時既に遅し。
50口径から放たれた銃弾が“妄想心音”を粉々に撃ち砕いていた。


「ギ………ギ――――――ッ!!」


身を貫く強烈な衝撃に耐えかね、バランスを崩し泥の海へと落下してゆくアサシン。
泥に着水する重い音を背後に、切嗣は次なる目標を見据え壁を蹴る。

「次は貴様だ、マキリ・ゾォルケン」
「………ぬ!」

身を翻し、アイリスのいる窪みに逃げ込んだ老人は、
自身を守るように二本の魔腕を出現させる。
切嗣はコンバットナイフを腰の鞘から引き抜き、
泥の壁面に突き刺し急制動をかけると50口径を発砲する。
だが、放った銃弾は泥の内でキネティックエナジーを殺され、
対面側まで貫けない。掌を広げた二本の魔腕が切嗣を叩き潰さんと襲い掛かる。


―――偽・螺旋剣カラドボルク


―――キュゴッ!!

その瞬間、千々に砕け吹き飛ぶ二本の魔腕。
轟音を立てて塔に突き立つのはアーチャーの放った螺旋剣。
セイバーの援護と自身の防御、八面六臂の活躍を見せる
アーチャーは切嗣の援護も忘れてはいなかった。
賞賛の口笛を吹き、50口径の狙いを付ける切嗣。


ドガンドガンッ!!


アイリスを傷つけない様に放たれた二発の50口径弾は、
壁を貫き老人の大腿部を吹き飛ばす。

「――――――がっ………」

崩れ落ち倒れ伏す老人。
時同じくして激しい攻勢を見せていた魔腕の群れが停止する。

流れの変わった空気に武器を下ろすセイバーとアーチャー。
大空洞に響く無念の唸り声が、戦いの終わりを告げていた―――。



家政夫と一緒編第四部その23。
望みを自身の手に取り戻した彼らに、最早一分の迷いなし。
振り払われた刃は夢に惑う老人を打ち破った―――。