退けない戦い



ガシャアアアンッ!

聖剣の一太刀で粉砕される莫耶。
足を動かし続けることによって攻撃から逃れるアーチャーだが、
どれだけ上手く運用しようとも干将莫耶では聖剣の圧力に耐えられない。
この攻撃を凌ぐ為にはせめてオーバーエッジか、
それ以上の刀剣を投影しなければならないが、
準備の隙など与えまいと神速の剣がアーチャーに迫る。

ヒュン、ガシャアアンッ!

一撃目をバックステップでかわし、二撃目を防御するが、
宝剣干将は聖剣の圧力に耐え切れずに砕け散る。
止めとばかりに放たれる唐竹割りを、素早く投影した干将莫耶で十字に受ける。

ビキッ―――!

「―――っ……」

だが、受けた端から崩壊の音を奏で始める干将莫耶。
舌打ち一つ、防御を諦めたアーチャーは
二刀を手放すと同時に素早くバックステップを踏み、投影した莫耶を投げ放つ。
魔力も乗せていない投射攻撃では自らを傷つけることは出来ないと踏んだのだろう。
アーチャーを目指し、迷うことなく地を蹴るセイバー。

『―――乗ってくれたか』


―――ゴバッッ!!


その瞬間、大爆発を起こす宝剣莫耶。
爆風はセイバーもろともアーチャーをも巻き込み、両者の体を吹き飛ばす。
爆発と同時に地を転がり熱衝撃から逃れたアーチャーは、
素早く体勢を立て直し敵を目視する。
粉塵を払いこちらを探すセイバーには傷一つ無いようだが、
彼我の距離は大きく開いた。
痛む体を歯を食いしばって黙らせると、即座に精神集中へと入る。


―――投影、開始トレース・オン


―――キインッ!

伸ばした右腕が掴んだのは細身の長剣“グラム”。
北欧神話における最大の英雄、勇者シグルドが扱った剣であり、
バルムンクともノートゥングとも呼ばれる邪竜殺しの魔剣である。
グラムは数ある竜殺しドラゴンスレイヤーの中でも最強の一振り、
これならばどうだ―――!

投影で発生した魔力で位置を気付かれたのか、
爆風を切り裂いて間合いを詰めてくるセイバー。
放たれた聖剣を止めるため、グラムを振りかぶる。

ギュインンッ―――ピキッ!

「なっ…………!?」

だが、耳に届いたのは破滅の音。
魔剣はただの一撃で崩壊の危機に瀕していた。

「アーチャー……否、神威の錬鉄師よ。
貴方の能力はありとあらゆる刀剣を再生できるもののようだな」
「…………」
「能力ばかりか蓄積魔力まで再現する手腕は悪魔的ともいえる。
認めよう。貴方は世界に二人と居ない、唯一を極めた英雄だ」
「…………」
「だが、それまでだ。
あなたの技術は複製。それでは―――私の剣を止められない」
「………ふん、ご高説は終わりかね?」

危機に震える歯の根を噛み殺し、不敵に笑う。
ああ、確かにアーチャーの持ち物はどれもこれも究極には届かない、偽者の寄り集めだ。
だが、ただひとつ本物と呼べる物がある。


―――I am the bone of my sword.体は  剣で  出来ている


「―――?」

膂力を振り絞り、今にも折れそうなグラムを水平まで持っていく。

「おおおおおおおおおおっ!」


―――ガシャアアンッ…………ザスッ!!


破滅の音を立てて砕け散るグラム。聖剣はアーチャーの身体を捉えるべく
振り下ろされるが、グラムの真下には垂直に構えたアーチャーの右腕。
手の甲から肘まで、固有結界の侵食により硬質化した右腕は
半ばまで断たれながらも聖剣の一撃を受け止めていた。

「――――――なっ!?」
「うおおおおおおお!」


―――固有結界 暴走オーバーロード―――!


ミキミキミキ…………!


内側から幾つもの剣を生やし、爆ぜたアーチャーの右腕は聖剣と一体化する。
セイバーは驚愕の表情を浮かべ、慌てて剣を引き抜こうとするが、
剣の刃と一体化した聖剣はアーチャーの右腕から引き抜けない。

「ぐっ…………アーチャー!?」
「く…………くくく…………。
複製と言ったな、セイバー」
「…………!」
「ああ、確かに私は贋作師。何処まで行っても偽者だ。
―――だが。
使う道具が偽者であろうとも、自分自身だけは……。
歩いてきた道と、この意思だけは―――本物のつもりだ!」

セイバーを振り払うように右腕を振るうと、
左拳を握り固め全力でスイングする。
右手甲でその一撃を受け、素早く間合いを取るセイバー。
聖剣はアーチャーの右腕に融合したままだ。

「………捨て身か、アーチャー」
「捨て身……? いいや、違うな。
守るものがある、進む未来がある。その為に全てを賭けているだけだ」
「………そうか………。
ならば、どうなろうと退くわけにはいかないのだな。
倒れるわけには………いかないのだな」
「そうだ。さて、先程よりはいい戦いになりそうだな、セイバー!」
「……っ、いいだろう。来いっ!!」


剣を失いながらも構えを取る青の英雄。
身体から剣を生やしながらも戦意を失わない赤の英雄。

取るべきものを失いつつも、胸に抱いた願いを叶える為に
両雄は退くわけにはいかない。
胎動する淀んだ腸の中で、二つの魂はなおもぶつかり合う―――。



家政夫と一緒編第四部その12。
自分よりも守りたいものがあるから、両雄は退くわけにはいかない。
如何に傷つこうとも、ただ誰かの為に戦い続ける。