親子:後編


「わたし、わたしっ、ほんとはおとうさんと、もっといっぱい
いっしょにいたかったんです……っ。
ごはんじゃないときも、ろうかであってあいさつするときいがいにも、
いっぱい、いっぱい、おはなししたかったんです……っ」
「…………っ」
「ぐすっ……。
でも、でも……わたし、なんにもできないから……。
だから、ねーさんと、おとうさんの、おべんきょうの
じゃましちゃいけないって。じっとしてました……。
そうやって、いいこにしてれば……っ。
いつかむかえにきてくれるって……ぐすっ」
「さくら……」
「…………」
「わたし、ばかですよね……っ。
そんなの、わかってもらえるはずなんて、ないのにっ……。
わたしが、いつもひとりでめそめそしてるとき……ねーさんと
あーちゃーさんはいつもこえかけてくれたんです……っ。
さくら、だいじょうぶ? さくら、どうしたのだ……って」
「…………」
「ぐすっ……おんなじ……なんです……!
むかえにきてほしいっておもうのも……だれかをしんぱいするのも……!
てをにぎらないと、こえをださないと……っ……
なんにも……つたわらないんです…………!
わたし、おとうさんに……っ、てをつないでもらったときね……っ。
すごく、すごくうれしくて、なんで、なんでゆうきをだして
いわなかったのかって……わたし……わたし……っ」
「………………」


時臣の胸に顔をうずめて泣きじゃくる桜。
自分はどれほど、この子の心を傷つけてきたのか。
手を握れないことでどれほど辛い目にあわせてきたのか。


「だから……やです!
やですよぅ……ぐすっ。
もっといっぱい、おはなししたいです……。
おそとも、いっしょにあるきたいです……っ。
わたし……おとうさんと、いっしょにいたいんです……!
だから……どこにもいかないで……くださいよぅ……!
……ぐすっ……うう……うええええぇん……!」
「……桜……」


桜の背をきつく抱きしめる。
感じるか細い温もりも、スーツを握り締める小さな手も、
その全てが時臣を必要としていた。

この子は……遠坂桜は、まだまだ小さな幼子。
強くなんかない。ただ頑張っていただけなのだ。
誰かにとって必要な人間で在りたいと、頑張っていただけなのだ。

何故、そんな事に気付かなかったのか。
当たり前だ。
声に出さずして、その手を握らずして、伝わるはずが無い。
判るはずが無い。

君の事を愛していると……伝わるわけが無い。


「私も……君を愛している。
君の事を……いらない子だなどと。一度も思ったことは無い……!」
「…………あ。
あう……ううう……ふえええ……っ。
わ、わた、わたしもっ……だいすきです……!
だいすきですよぅ…………!」
「…………とうさん」


泣きじゃくって時臣の胸に顔を擦り付けてくる桜。
その様を瞳を潤ませて見つめる凛。
きっと、凛も願っていたのだろう。
桜の願いが叶うことを。桜が自分の思いをきちんと相手に届けられる、
その日を。


「私は…………死ぬわけには、いかない。
今まで出来なかった事の為に……命を賭けるわけにはいかないんだな」
「…………!」「…………!」
「わかった。少々家訓には反するが……。
戦術的撤退だ、凛、桜。地の果てまでも……逃げ続けるぞ」
「……とうさん……!」
「お、おとうさん……おとうさぁん……!」


二人の背を残った一本の腕で抱えると、
残された魔力を総動員し、衛宮切嗣の妨害に回す。
時臣の体がどこまで持つかはわからないが、今は全力を尽くすべきだろう。
激しくなる銃声。さあ、逃亡劇の始まりだ。

「凛、アーチャーの位置はわかるか?」
「えと……さっきからここらへんのマナがつよすぎて、
もやっとしかわからないけど……。
さっきほうせきちょうをあーちゃーをさがすためにとばしたから、
すぐわかるとおもう!」
「上出来だ。では行こうか、おまえたちのサーヴァントの下へ」
「うんっ!」「……はいっ!」

重力制御によって移動力を倍加すると、
残された力を振り絞り時臣は地を蹴る。
凛と桜、大切な二人の家族を―――守るために。



◆  ◆  ◆  ◆



家政夫と一緒編第三部その47。
胸の内は思うだけでは誰かに伝わらない。
声に出して、口に出して初めて伝わることもある。
手を繋ぐことで、伝わる思いも―――あるのだ。