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破壊した玄関戸を乗り越え、屋敷内に侵入した切嗣。
玄関ポーチの壁を背に、手榴弾のピンを引き抜くと
ホールに向かって投げ放つ。

コンッ―――ズガッ!!

壁を打ち床に落ちた手榴弾は破片を撒き散らし爆発する。
爆破確認と同時にアサルトライフルによる掃射射撃を行い、
素早くホールへ突入するがそこに敵の姿はなかった。
先程は二階にあった遠坂時臣の姿。迎撃にでてくるならば
ここ中央ホールかと思っていたのだが、未だ二階にいるのか、
それとも一階の別の部屋にいるのか。

気を取り直し、靄のかかるホールを見回す切嗣。
遠坂邸はホールを中心として繋がる洋風建築の屋敷であり、
各部屋へはこのホールから直接向かえる構造になっている。
一階二階共に酷似した間取りをしており、
日本家屋で言う回廊状の廊下が基本的に存在しない。
その為、一つの部屋をクリアしようとすると他の部屋から
背後を討たれる可能性があるのだが、一人で屋敷を制圧しようというのだ、
ある程度の危険は覚悟せねばならない。

爆破によって窓が吹き飛んだ為、応接間と居間には内部に人がいないのを
外から確認出来ている。未確認の部屋は食堂と書斎の二つ。
先ずは書斎から攻めることにする。

木製のドア越しに5.56mm弾をばら撒き、手榴弾のピンを引き抜きカウント。
部屋の中に放り込むためドアを開ける。
と、その時。


―――ぬっと。


ドアの内側から現れる腕。
その手には、手榴弾が―――。


「―――!!!」

手に持った手榴弾を慌てて部屋に投げこむと、一目散に
玄関ポーチへと飛び込む。直後―――爆発。
伏せた状態から素早く立ち上がると壁を背にホールの様子を伺う。
静まり返ったホールには物音一つ無く、人の気配は無い。

『部屋の中にいた誰かが遠坂時臣だとすると……
まさか今ので終わったのか……?』

肌に絡む靄を鬱陶しそうに払い、冷や汗を拭う切嗣。
これではあまりにも“楽すぎる”。こちらに攻撃してくるにしても
今のやり方では良くて相打ち、悪くて自爆、攻めるも守るも利するところが無さすぎる。
敵に回している男のことを考えるとこれで終わりというのは
どう考えてもありえなかった。

警戒心を二割り増しにしてホールへ顔を向けると、状況診断を開始する。
手榴弾で空いた床の穴が一つ、壁には踏み込んだ際に穿った弾痕と
飛び散った手榴弾によりついた傷跡が無数にある。
後は―――蝶番が壊れた書斎のドアが見えるくらいか。

『…………?』

何か―――頭に引っかかる。
違和感を突き止めようと考え始める切嗣だが、その思考を乱すように
朗々たる声が耳に届く。


『魔術師殺し―――衛宮切嗣だな』
「――――――」


聞こえたのは男の声。恐らくは屋敷の主遠坂時臣だろう。
声の位置を特定しようと耳を澄ますが、反響しているためか
場所は判然としない。

「……夜分遅くの訪問申し訳ないね。
不躾だが貴方を殺しに来た、遠坂時臣」
『ブラックジョークで笑えるほど寛容ではない。
そういう輩には早々に退去願うことにしている』
「生憎だが鉛弾の押し売りには失敗したことが無くてね……!」

M203のバレルをスライドさせグレネード弾を装填する。
弾種は催涙弾。着弾と同時に毒性の強いCNガスを噴出し、
目を鼻を潰す擲弾である。切嗣は首にかけていたゴーグルとマスクを着用すると
ホールに向かってグレネードを発射する。
着弾と同時にガスを噴出する催涙弾。充満する煙の中を
アサルトライフル片手にひた走る。

先程の手榴弾の件はいまいち判然としないが、遠坂時臣の声調
からすると手榴弾によるダメージは無かったと見える。
あの一瞬で飛び迫る手榴弾の破片を全て防御することは
相当な腕を持つ結界魔術師以外には無理だろう。
となると書斎にいたとは考えられない。何か別のからくりが働いている。

しかし、その種明かしを悠長にやっている時間は無い。
ならば彼がいる可能性の高い二階ホールへ向かい
直接戦闘に持ち込むまでだ。

ホール北西の大階段を踊り場まで駆け上がると、走る途中に装填していた
グレネード弾を二階のホール天井に向けて発射する。

―――シュポッ、ゴワンッ、ズンッ!!

着弾、爆発。だが聞こえた音は二つだ。
グレネード弾の爆発は天井を吹き飛ばし瓦礫を山と降らせるが、
そこに遠坂時臣の姿は無い。
階上まで駆け上がった切嗣は炎を吐く朝食の間、子供部屋、
寝室の他に開いているドアがあるのを確認する。
浴室―――ちょうど書斎の真上にあたる。

「―――!!」

気付くと同時に、割れたホールの窓から外へ飛び出す切嗣。


―――ゴワアアアアアアアアンッ!!


膨れ上がり吹き飛ぶ二階ホールの床。階下で放たれた魔術により
真下から突き上げられたのだ。
切嗣は土の地面に柔らかく着地すると、素早く右手方向へ視線を走らせる。
そこには―――窓から外へ飛び出すコートを着た男一人。
こうなることを読んで書斎の窓から外に出たのだろう。
着地衝撃が大きい分切嗣の方が反応が遅い―――!

「―――っあっ!!」

形振り構ってはいられない。着地の勢いのまま前方に飛び込み、
迫る拳の一撃を回避する。
枯葉の積もる柔らかい地面を滑るように前転すると、
素早く体勢を立て直し遠坂時臣と向かい合う。

対峙する二人の魔術師。
銃と拳、異なる理を持って戦う魔術師が今、激突する―――。



家政夫と一緒編第三部その42。
魔術師殺しVS赤い魔術師。
共に勇名を馳せる魔術師同士の戦い。
果たして、どちらに軍配が上がるのか。