遭遇



キュイインッ!

夜の柳洞に剣戟が響き渡る。
木々をすり抜けぶつかり合う、赤と白、二つの影。

ゴオオンッ!!

重い一撃に吹き飛ぶ木っ端。
長大な槍斧から繰り出される旋風のような一撃を木を利用して回避すると、
アーチャーは地を蹴り間合いを引き離す。
だが、白のホムンクルスは超重量を誇るハルバードを事も無げに振り回し、
猛烈な速度で追撃してくる。

ブウンッ、ゴオンッ!!

「―――くっ………!」

構造把握により得た情報で最適のルートを選択しながら
山肌を駆けるアーチャーだが、強力な結界が体を呪縛し敵を引き離せない。
サーヴァントにとって柳洞の山は鬼門である。
降魔調伏・悪霊退散の意を以って張られたこの法術結界は、
霊体である彼らにとって何よりも強力な枷となる。


―――ギュンッ!


「――――――!」

―――それでも、敵がホムンクルス一人であったのならば
問題は無かっただろう。
咄嗟に掲げた宝剣莫耶に打ち当たる鉄塊は、一尺に届く巨大なダガー。
ダガーの投擲主は暗殺者―――アサシンのサーヴァントである。
彼はこと暗闇と山岳戦闘に於いて勝る者の無いスナイパーだ。
片手間で戦える相手ではない。

「チッ………!」

陥った状況のあまりの酷さに舌打ちをする。
屋敷を出ればそこは戦場。この状況は予測して然るべきだった―――。




冬木大橋の決戦から一夜。
聖杯戦争を終結させるべく行動を開始したアーチャーは、
記憶にある文献から目処をつけ、柳洞寺のお山に"とあるもの”を
探しにやってきた。

霊体の侵入を拒む柳洞寺の結界に踏み入り、深い森の中を探索中に
襲い掛かってきた白いホムンクルス。
特徴的な白いドレスを纏う女は、聖杯戦争開始当初からマークしていた
アサシンのマスターだった。

戦闘用ホムンクルスといえばアインツベルンの十八番。
人間をしのぐ身体能力を誇り、命令にも従順な彼女らは
確かに使い勝手の良い駒ではあろうが、
正式なマスターとして切嗣を擁する彼らが何故ホムンクルスを
マスターとして使っているのかは判らない。
人ならざるものである彼女らは強力な反面、弱点が多いことも事実。
マスターをやるにはリスクが高い。

とはいえ、先日の冬木山中での戦いにおいて数々の魔術的トラップで
苦しめられた油断できない相手でもある。
遭遇早々、決着をつけるべく全力で攻撃を仕掛けるアーチャーだが、
闇の中に潜伏していたアサシンの強襲により状況は悪化。
不利を悟り即座に撤退を開始するアーチャーだったが、
森の中には先日同様、張り巡らされた禁戒のトラップが無数に設置されていた。
柳洞寺のお山はアサシンのテリトリーへと変えられていたのである。



キンッ! ザコッ!

飛来する2対のダガーの一方を落とし、一方は木を盾に躱す。

『埒が明かんな―――』

このまま守勢に徹していても状況は変わらない。
干将莫耶を幻想に戻し、すばやく短弓を引き出したアーチャーは
ダガーが飛んできた方向に向け弓を構える。

ギュアッ!

銀光一閃。放たれた数条の矢は暗闇の中へ飛んでいく。
闇の中に潜むアサシンを捉えるのは不可能。故にこの一矢は牽制である。
撃つと同時に高い杉の木を駆け上ったアーチャーは
幹をさらに蹴り、斜め上方へと飛び上がる。
追撃してきていたホムンクルスは着地際を狙うためか、
アーチャーを視界に入れながら疾駆する。

―――投影、開始トレース・オン

だがその行動は想定済みである。
強力な意識妨害を振り切って、
ノッキングポイントに投影した矢は宝具”偽・螺旋剣”。
剣が発する巨大な魔力を察知したのか、ホムンクルスの目が恐怖に見開く。

「飛べ―――“偽・螺旋剣”カラドボルク!!」


キュゴウッ―――!!!


放たれた魔弾。
空間を巻き込み捻じ曲がる一矢は鬱蒼と生える木々を根こそぎ倒し、
アサシン、ホムンクルスのいるであろうほぼ中間の位置に着弾する。


―――壊れた幻想ブロークン・ファンタズム


カッ―――ズゴオオオオオオンッッッ!!!


―――爆発!
熱波を発し、破壊を撒き散らす偽・螺旋剣。
爆心地からは外れているものの、その余波はアーチャーもろとも
アサシン達を巻き込み、山肌諸共吹き飛ばす。
効果と破壊半径を予め弁えていたアーチャーは
熱波から聖骸布で身を守ると、物理干渉を振り切って地面へと着地する。

山林は酷い状況だ。
木々は折れ、積み重なり、枯れ枝に火がつき視界が悪い。
爆心地からは外したのでマスターともどもアサシン主従は
顕在であろうが、この状況ならばすぐさま追撃はしてこられまい。

「―――南無三。
申し訳ない御住職」

加害者が謝意一つ。
すばやく踵を返したアーチャーは柳洞のお山から撤退したのだった。



家政夫と一緒編第三部その15。
聖杯戦争を終結させるため、動き出したアーチャーは
柳洞寺のお山に於いてアサシンの主従と遭遇する。