Overwhelming enemy.


キュインッ…………ゴオオッ!!ダンッ!

振り払う剣はぶつかり合い、火花を散らす。
一撃目は交差のみ。
アーチャーとセイバー、互いに人外の力を誇るサーヴァントではあるが
空中戦は得手としない。
対面のビル側面へと“着地”した両者は、
己がフィールド―――地を目指し壁面を蹴る。
跳ぶ速さそのままに地面に到達すれば激突死は免れない。
重力と蹴り足により加速した体は数秒後にはミンチと化すだろう。
だが―――。

―――ダンッ………ガアアンッ!!

高度25メートルで壁面を蹴った両者はその加速を利用し、再度空中で激突する。
運動エネルギー全てを費やす斬撃は衝撃力十数トンにもおよび、
体組成を維持する為に放出された魔力は電荷となり大気を焼く。

「―――」
「―――」

ぶつかり合う視線。交差し離れていく体。
壁面へと戻った両者はコンマ数秒、その刹那すら無駄に使うことなく、
次の一手を繰り出す。

剣兵は着地反動を使い突貫を。
弓兵は投影したダガーの射撃を。

ヒュヒュン……ギン、ガンッ!

放たれた二対の刀剣は目にも留まらぬ速さで振るわれた
セイバーの一閃によって叩き落される。
が、アーチャーも然る者。
投射を目くらましに壁面から離脱、地面へと逃れていた。




ダンッ―――ザッ。

「――――――」

着地したアーチャーは視覚情報に意識を向け、次の行動を模索する。

アスファルト、マンホール、路地、通りに消えていくカップル。
大通り、人々、車、信号機、T字街灯、はためく布、ビル街。


後方は大橋へと続くメインストリート。人通りが多い。
大通りに入れば戦闘続行は不可能だ。目立ちすぎる上に犠牲者が出る。
ここでセイバーとやりあっても勝ち目は薄い。ならば逃げを打つのも
手ではあるか―――?
彼女の性質上そうなれば無理に戦闘続行という選択肢は選ぶまいが……。


思考は一瞬。
だがその一瞬ですらもセイバーというサーヴァントは逃さない。
ビル対面壁への激突を爆風放射によって緩和したセイバーは
壁を蹴り一直線、アーチャーへと迫る!

「―――チッ!」

ゴオンンッッ!

セイバーの一撃により砕け、舞い上がるアスファルト。
横っ飛びでその一撃を回避したアーチャーは
歩道に立つT字街灯に素早く飛びつき、
鉄棒の要領で一回転、高く飛び上がる。
その手に現れ、構えられる弓―――。

「―――投影、開始トレース・オン―――!」

サイティングは一瞬。
放たれた幾条もの炭化タングステン鋼矢は狙いたがわず
着地際の硬直するセイバーへと迫る。
―――だが。

「はあああっ!!」

矢がセイバーを捉えようとする瞬間。
膨張した風の塊がまるで質量を持つかのように矢の尽くを捉え、
地面へと受け散らす。
それは結界。意思を持つ魔力の風だ。

「―――なっ………!?」

路地から巻き起こった風は大通りにいる通行人を巻き込み
何事かと注目を集める。
だが、セイバーの体は既にそこには無く―――


「―――く」


―――跳躍一つ。アーチャーの目前にあった。

体内魔力を足に集約し、起爆する事で生み出した推進力はセイバーの体を
弾丸のように砲撃する。
全身これ“魔力炉”であるセイバーだからこそ出来る超人技である。
それは技術ではなく力技だ。

セイバーの上段なぎ払い。
飛んで来る勢いそのままに繰り出される刃の一撃は
食らえば胴体を真っ二つにするだろう。

「――――――!」

形振り構ってはいられない。
瞬時に組み立てた最も信頼の置ける投影―――莫耶を剣撃に対し“縦に”構える。

パアアンッ!!

銀光一閃。舞い散る鋼。
当たった場所から幻想へと還り、砕け散る剛剣・莫耶だが
その一撃で生まれた衝撃はアーチャーを側方へと吹き飛ばし、
身体の両断を防いだ。

―――ダンッ、ダダンッ!

着地したのは運送用トラックの荷台の上。



「―――チッ………」

ここに到るまでおよそ8秒。
なんとか生きながらえたアーチャーだが、右手の感覚が殆ど無い。
先ほどの一撃を防ぐ為に無理をしすぎたためか、筋繊維が引き裂けたらしい。
指の骨は何本か折れ、治療無くば剣もまともに握れまい。
その上全身を苛む強烈な痛み―――先のアサシン戦での傷口が開いたのだ。

開いた傷口、右手の負傷。
セイバーと真っ向勝負をするのならば―――致命的な傷だ。

「………泣き言は言っていられんか」

残りの魔力を動員して干将を投影する。
体調維持、行動魔力、防御用強化、以降の戦闘用魔力―――。
その全てを考えてもこの戦いで使える最後の投影だ。
最後の命綱ともいえる武器は、最も信頼するこれしかない。

ダンッ。

後方、走るワゴンの屋根の上。すらりと立つ白銀の鎧姿。
傷つくことも無く、疲弊する事も無く、ただ美しい瞳がこちらを捉えていた。
その視線の、なんと恐ろしい事か―――!

「ク、ククク―――」

見るとも無く矢を防御した直感。
ずば抜けた身体能力。
圧倒的な攻撃性能。そして攻防共に優れた宝具。
―――役者が、違う。このままでは敗北する。

ガタンガタンッ。

視界の高度が上がる。車は大橋へ上がるため高架へと登ったようだ。
このままいけば冬木大橋へと到る。
潮風が伝える、海が近い。

「―――やるしかあるまい」

死の風を伴い、剣の王が後方より迫る。
手に持った愛剣の感触を頼りに、アーチャーは迫る死神との戦いへ腰を上げた。



家政夫と一緒編第二部その33。
弓兵VS剣兵。
7騎のサーヴァント中最強を誇るその剣技は、
弓兵でありながら剣を取るアーチャーにとって分が悪く、
癒えない傷、低下した魔力を抱えての戦闘に勝機を見出せない。

背水の覚悟で剣を取るアーチャーは
一縷の望みに賭け、冬木大橋を目指す―――。