Interlude1-4:Dance with the hawk.


黒曜石で出来た鳥が夜空を飛ぶ。
その鳥は世闇の中でも遠くまで見通す目を持っており、彼の目が見張るのは
眼下にて駆ける赤き騎士―――アーチャーの姿だ。

暗雲が作る雲のカーテンが月光を遮り、闇が黒い体を覆いつくす。
彼の体は風景と一体化し、その存在を弓兵に気取らせない。
黒い鳥は音もなく翼をはためかせ、赤い騎士の姿を追い続けた―――。


山を眼前に望む、冬木市のはずれ。
騎士は手馴れた動作で巨木の太い枝に着地すると
遥か遠く―――ここから1KM弱はあろうかという山の中腹を観察する。

そうして、待機すること二時間。異変はやってきた。


ザザザザザザ………。

突如として山肌を割り倒れる樹木。揺れる梢。
家もないような山奥のためか。その異変に気づいているのは
おそらくは弓兵と黒い鳥のみ。

弓兵はその異常に動揺することも無く、山中で行われている
”何か”を目で追い続ける。
そうして倒れる木の本数が3本を越えたとき、何事かをつぶやいた。

―――投影、開始トレース・オン

その掌中に現れたのは、闇夜のように光を映さない漆黒の弓。
彼の名を冠する武具、長弓ロングボウだ。
左手で構えた弓のノッキングポイントに矢を持たぬ右手を添え、
山中で行われる”何か”にまるで射抜くかのような視線を送る。

それは機を計る野獣の様。
否、実際にそうなのだろう。
弓兵はこれから、何かを狩ろうとしている―――。


鷹の目のようなその視線から放たれるのは紛れも無い殺気であり
直視されたならば殺されかねないほどの強烈なものだ。

一本、二本。

竜巻のような勢いで次々と両断されていく木々は、
行われている”何か”のすさまじさを物語っていた。
だが弓兵はその事象に心ひとつ乱すことなく、淡々と隙をうかがい続ける。

―――――そうして。
一瞬の間。山中で膨れ上がる膨大な気配。
行われている“何か”が、決着をつけんと“切り札”を投入したのだ。

鳥も虫も。生あるものの声が途絶えたその一瞬。
弓兵の掌中に膨大な魔力が集中するのが“見て取れた”。


――――I am the bone of my sword.我が骨子    は 捻 じれ    狂う。


―――それは、魔術の概念においてありえない幻想。
触媒も使うことなく、魔力を形にするという奇跡。
そうして練られた膨大な魔力は、弓兵の右手で実体化する。

まるでドリルのような形状をした武器―――”剣”だった。

弓から放たれる矢などでは決して無い。
だが、それゆえに。
その剣が放つ凶器としての禍々しさはいっそう引き立てられ、
ソレが間違いなく人を殺すものなのだということが感じ取れた。



―――“偽・螺旋剣”カラド、ボルク
剣が弓兵の手に握られてから弦を引くまで。


―――――キュゴウッ!


迷いなく放たれた死の一撃が―――
山腹に突き刺さった。


ゴワアアアアアアアアンッ!!!!


鉄をも溶かす爆炎と衝撃を伴ってその一撃は山腹を吹き飛ばす。
剣が爆発したであろう半径15メートル以内は瞬間的に発生した
熱エネルギーで焼き尽くされ、爆圧によって嘗めつくされた。

―――――ヒュオッ。

鳥の目の注意が爆発によって逸れたその瞬間に
樹上にあった弓兵の姿は掻き消えていた。
ありえないほどの高速移動。
下半身のバネを使い瞬時に別の地点へと跳躍したのだ。
ヒットアンドウェイ、攻撃した地点からの素早い移動。
鳥は慌てて弓兵の姿を追う。

「――――――チッ」

着地し、そのままあぜ道を走る弓兵の口から舌打が漏れる。

「一方の主従には被害なし………よほどの勘のよさか、はたまた運か。
もう一方は主人にダメージを与えたものの従者には
大きなダメージは与えられんかったか………。
鈍ったのか………それとも」
独り言のように呟いて自分の手を見つめると弓兵は表情を硬くする。
逡巡、焦燥―――迷い。
首を振り、それらを消すとまた―――あの恐ろしい目に戻る。
その足は山中で揺れる梢………
おそらくは”戦っていた”一方―――の追跡に移ったのだろう。
跳び、駆ける速さはまるで疾風のようで。


そのあまりの高速移動に、鳥の目は弓兵の姿を追いきれない。




「―――――――――――――ッ」

それ以上。
アーチャーを追うのが怖くなって―――。
私は鳥のコントロールに魔力を割くのをやめた。



―――Interlude out



家政夫と一緒編第二部その12。Interlude1-4。
それは。
知らない誰かの姿だった。