Interlude1:魔術刻印



弟子達が主に言った。
「私達の終わりがどのようになるかを、私たちに言ってください」
主が言った。
「あなたがたは一体、終わりを求めるために、はじめを見出したのか。
なぜなら、始めのあるところに、そこに終わりがあるであろうから。
はじめに立つであろう者は幸いである。そうすれば、彼は終わりを知るであろう。
そして死を味わう事が無いであろう」





―――魔術刻印の話をしよう。


魔術刻印は形になった魔術であると同時に、
持ち主が魔術師である事を証明する身分証のようなものである。
刻印を持たない魔術師は通常、魔術師とは呼ばれない。
何故か?

それは、魔術の存在定義というものを考えていけば判るかもしれない。
魔術師はすべからく“知識”を求める存在だ。
行き過ぎた学者、とも言えよう。
学者といった人種は基本的に未知の物に強く惹かれ、
その正体を見定めるために人生の全てを費やす。
脳の構造然り、未知の病然り、魂の実存然り……
それは魔術師も同じである。
大いなる認識グノーシスに至らんと精神の深奥、
究極の知識を求める存在、それが我ら魔術師だ。

我らが求める知識の究極とは、“アカシックレコード”と呼ばれる
情報体……つまり、根源に存在すると考えられている。
全ての事象、全ての知識、全ての歴史が存在するといわれるその場所は、
知識人にとっての理想郷だ。
どんなものを追い求める人間にとっても、その場所にふれることが出来れば
自ずと答えを得る事が出来る。どんな苦悩も解決する事が出来る。
つまり、魔術の究極とはその場所に到達する、という部分にある。
それ故に全ての魔術師は“根源到達”を目標とするのだ。



さて、魔術刻印の話に戻ろう。

魔術刻印とは魔術師にとって、どういったものなのであろうか。
広義に解釈すれば、魔術刻印とは魔道書であり、遺産であり、血肉である。
だが、その定義では少々わかりにくい。
私の目指す目標に合わせて言い方を修正してみよう。


魔術刻印とは―――根源までの“地図”である。
根源に辿り着くために始祖が作り出した設計図、と言えるかもしれない。

根源追求の道程は開かれていない山を登ることに似ている。
到達すべき山頂を睨み、地理を調査し、ルートを設定し、
外敵カウンター・ガーディアンに出くわさないように注意を払い、準備を整えた上で、
遙かな山頂を目指して道なき道を切り開き始める。

最初に、辿り着くための計画と道筋が在る。
我らの山登りとは、白地図に書き出した予定の道を
一つ一つ“完成”させていく構築作業そのものだ。
天を目指してバベルを作る行為にも似ているかもしれない。
一つの魔術が完成すれば一歩根源に近づける。後はそれを積み重ねていけばいい。

とはいえ、我らが登る山は尋常のものではない。
主の下へと伸びる果ての無い絶壁である。
当然、我らは己の人生のみでそこに到達できるとは考えない。
次の世代にその悲願を託すため、我らは己が完成させた道を、
子孫の体に“マッピング”し、己の業績を“セーブ”する。
子孫は体に穿たれた道をロードポイントにして、
地図を片手に再び山を登りだす、というわけだ。


それが―――魔術刻印。
山を登る知識を得た人間が登山家と呼ばれるように、
刻印を持つ事で初めて、魔術使いは“魔術師”と呼ばれるようになる。

刻印は根源を目指す魔術師の証であり、
刻印の完成度はその家系がどれだけ緻密な計画を以って
根源到達に迫っているかを証明するものなのである。



ライダーと一緒編-Sその6。
魔術刻印の話。
それは根源までの地図。始祖が見た終わりの具現。