Fate


「――――ぬ!」
ランサーの槍を潜り抜け外へと脱出した少年は
捉えたはずの窓越しの一撃を全力で弾き返した。
『こいつ・・・・!!俺の行動を予想しやがった・・!』
ただの少年がこと命の取り合いでこれほどの機転を見せる。
剣術はからっきしかと思われた少年に失望していたランサーだが
これはどうして・・・舐めてかかれる相手ではない。
―――ならば。

「・・・え?」
槍を手元に引き戻さず、ランサーは弾かれた力を利用して一回転。
渾身の回し蹴りが少年の胸を捉えた。
常人の膂力をはるかに超えたランサーの蹴りの威力は
常軌を逸する。蹴られた少年はまるで空を走るように
地面すれすれをすっ飛んでゆく!

ドガアッ!

少年の体は土蔵の壁に衝突しバウンドする。
――これで倒せるなどとは思ってはいない。
ランサーはゲイボルクを構え少年へと突進する!
ふらふらと立ち上がる少年の頭蓋を砕こうと槍が走る。だが・・・。

ガコオォォンッ!

少年はふらつく体を支えきれずに膝を折り
それが運良く頭部への一撃を回避する結果となった。
槍は土蔵の扉を強打し、それを開け放つ。
「チィ、男だったらシャンと立ってろ・・・!」
忌々しげに舌打ちし、槍を引き戻すランサー。
その一瞬の隙に少年は這うように土蔵の中へ滑り込んだ。
「そら、これで終いだ―――!」
隙だらけの背中に放たれた槍は今度こそ少年の背中を貫通するはずだった。
だが少年はその一撃を持っていた紙の剣を広げ
盾の様に使うことでそれを防ぐ。
「ぬ・・・!?」
ランサーの双眸は驚愕に見開かれる。

次から次へと恐ろしく機転を利かせるものだ・・・!
―――底が知れない。
それは先ほど出会った弓兵に通じる才覚・・・
そう、死を間際にして戦地を生き残る術を本能的に身に付ける者のモノだった。
悪あがきともいうが戦争において重要なのは何としても死なないこと。
それは戦争の名を冠するこの戦いにおいて最も重要なものの一つである。

この少年・・・もしや。

だが防ぎきれなかった槍の衝撃が少年の体を打ち据え
その体を壁にたたきつけた。
震える手が必死に獲物を探す。だが―――。
「詰めだ。今のはわりと驚かされたぜ、坊主」
その一瞬で間合いを詰めたランサーは
今度こそ少年の心臓をその切先で捉えていた―――。

「・・・しかし分からねえな。機転は利くくせに魔術はからっきしときた。
筋はいいようだが、まだ若すぎたか。
もしやと思うが、おまえが七人目だったのかもな・・・。
ま、だとしてもこれで終わりなんだが」
あとはこの槍を突き出すだけで終わる。
将来が楽しみな少年ではあったが・・・運が無かった。
―――さらばだ。


突き出されたランサーの槍が―――

「ふざけるな、俺は―――!」

突如として”現れた”少女の一撃によって、弾かれた。


「なに・・・・・!?」
現れた少女は迷うことなくランサーの槍を一撃しその懐に潜り込もうとする。
「―――本気か、七人目のサーヴァントだと・・・!?」
槍を瞬時に引き戻し少女の”見えない何か”を向かえ討つ。

キィン!チギィン!

なんと重い剣撃!少女の小柄な体から繰り出されたとは思えない
強烈な連撃にランサーはたたらをふむ。
「く――――!」
この狭い土蔵内では”アレ”を相手にするのは槍ではあきらかに不利――!
視線を少女からはずすことなくバックステップで土蔵の外へと
飛び出した。


土蔵の中で―――。少女は少年に語りかける。
「―――問おう。貴方が、私のマスターか」
そう、それは誓いの言葉。
聖杯戦争を共に戦うマスターに問う契約の問いだ。

土蔵内に契約の完了を示す魔力の波動を感じる―――。


『・・・そうかよ。ようやくはじまったってわけか」
その契約は同時に―――。
7騎のサーヴァントがこの地に現臨したことをも示す。
そう。
聖杯戦争は今ここに、はじまったのだ―――。


ランサー編その6。
そして始まる。7騎のサーヴァントがその願いをかけて戦う
熾烈なる殺し合い。
少年と少女の運命の歯車が回りだしたのと同時に。
ランサーの聖杯戦争も、いまここに始まりを告げた―――。