運命の場所へ


『仕留めそこなったな、ランサー』
「・・・・・・あ?」
帰還の途上、言峰のその言葉にランサーは耳を疑った。
「・・・オマエの”目”は節穴か?
オレの槍で心臓を串刺しにしただろうがよ」
『事実衛宮士郎は生きている。奴の自宅へ向かい今度こそ止めをさせ』
それきり言峰は言葉をよこさない。
『・・・どういうことだ?・・・・くそっ・・・!』
己の槍に絶対の自信を持っているランサーだからこそ
それはありえないことだと断言できる。
ならば命令以前に己が目で確認せねば納得できぬ。
ランサーの脚が屋根を蹴る。目指すは衛宮邸―――。



「こ――――のぉ・・・・!!」
前方へ大きく跳んだ少年は
ランサーの頭上からの強襲を回避し立ち上がった。
・・・少年は生きていた。それもほぼ無傷といえる状態で。
「・・・余計な手間を。
見えていれば痛かろうとオレなりの配慮だったのだがな」
少年は紙切れを丸めたようなものを構え必死の形相で窓際へと移動する。

―――何のつもりなのか。
ランサーの中には既に慈悲の心より
仕留めそこなった獲物の悪あがきに対する怒りすら芽生えていた。
・・・ふと目をやった少年の面差しが
この技を愚弄したあの弓兵のそれと重なる。

―――こんな坊主にまで舐められているというのか。
その紙切れでこの槍を防ぐと―――?

「・・・まったく、一日に同じ人間を二度殺す羽目になるとはな。
いつになろうと、人の世は血生臭いということか」
その怒りはやり場も無く。また無力な少年へとぶつけられることになる。
―――この身はどこまで堕ちれば気が済むのか。

「じゃあな。今度こそ迷うなよ、坊主」
見るでもなく放たれる槍。
だが視界に捉えている以上はずすわけがあるまい。
―――そのはず、だった。

ギインッ!!

「・・・・・?」
少年の手に持ったソレ紙切れが槍を防ぐ。
―――ソレは意図した防御ではなかったのだろうが
・・・ランサーには十分だった。
「・・・ほう。変わった芸風だな、おい」
この槍はただの槍ではなく魔力を通わせた”宝具”。
ただの紙切れがそれをとめられる訳も無く。
だとするならばそれは―――。
「ただの坊主かと思ったが、なるほど・・・微弱だが魔力を感じる。
心臓を穿たれ生きている、ってのはそういうことか」
ランサーの体に活力が戻ってくる。
目前の少年は魔術師。それも破壊された心臓を修復するほどの技量。
ならばそれは無力な贄などではない―――。
「いいぜ―――少しは楽しめそうじゃないか」



ランサー編その5。舞台は運命の地へ。
赤毛の少年と赤い姫君。そしてランサー。
3つの運命が一人の少女を呼び出す。
聖杯戦争のゴングはいま鳴らされようとしていた。