赤と蒼


ランサーの一撃がアーチャーの短刀を弾き飛ばす。
連続した直線突きからの手首なぎ払い。
神速で行われるそれはわかっていてもかわせまい。
「――――!」
「―――間抜け。」

『良くがんばったな。弓兵。だがそれもここまでだ。
―――死ね。』

眉間、首筋、心臓。
狙い済ました必殺の閃光がアーチャーを襲う。
―――だが。

チギュイイン!

「―――!?」
その一撃は突如として現れた二振りの短刀によって防がれてしまう。
「チィ、二刀使いか・・・!」
左右対称の中華剣。並みの剣士なら両手でも扱うのに
苦労するだろうその獲物を、弓兵はいともたやすく振り回し構えなおす。
「―――ハ。
弓兵風情が剣士の真似事とはな!」
再び開始されるランサーの呵責の無い神速の舞。
だが弾いても弾いてもその剣はアーチャーの掌中より沸き続ける。
響き渡る鋼の協奏曲。
退くことを知らぬ赤き騎士はいつしか。
その裂帛の気合を持ってランサーの陣をじりじりと削っていた。


・・・事ここに至ってランサーは己の油断を恥じる。
手を代え形を代えランサーを翻弄する弓兵。
その挙措は玄妙にして老獪。紛れも無く白兵戦において
不慣れな者の動きではない―――。
ならば。
目前の敵がどこの何者であろうと。
弓兵と侮れば敗北するのは己であると――。
ランサーは確信した。


「二十七。
それだけ弾き飛ばしてもまだ有るとはな」
ランサーの中に目前の敵に対する油断は既にかけらも無い。
むしろ―――。
困惑があった。目前の騎士は何者か。
「どうしたランサー。様子見とは君らしくないな。
先ほどの勢いは何処に行った?」
その気配を察したのか。赤き騎士はその口元を歪め
飄々と笑う。
「・・・チィ。狸が。減らず口を叩きやがるか」
全力を出せないながらも槍術に手心を加えたつもりなど
毛頭無い。だが弓兵はその尽くを剣士として凌いだのだ。
「・・・いいぜ。訊いてやるよ。
テメエ何処の英霊だ。二刀使いの弓兵など聞いた事がない」
「そういう君は判りやすいな。
槍兵には最速の英霊が選ばれるというがその中でも君は選りすぐりだ。
これほどの槍手は世界に三人といまい。
加えて獣の如き敏捷さといえばただ一人」
己が技を持ってその全てを防ぎきった弓兵にして言わしめる皮肉。
それは目前の騎士の己への自負とランサーに対する挑発を含めた
一言だった。
―――知っているぞ。クー・フーリン。・・・と。
「―――ほう。よく言ったアーチャー」
―――舐めるか。このオレを―――!

ブオンッ!

我が子を殺し、友を殺した呪いの槍。
だが生涯においてこれ以上無い敵を屠ったその槍の技は
彼の秘術にして最強を誇るもの。

「ならば食らうか、我が必殺の一撃を」
蒼の騎士の双眸は溢れんばかりの殺気をこめてその男を捉える。
「止めはしない。いずれ超えねばならぬ敵だ」
赤の騎士は不敵に笑う。

―――よくぞ言った。
ならば受けてみよ。死の棘の、一撃を―――!

心地よい殺意が体を満たす。
だが。その意識を遮ったのは怯えたような
―――少年の顔。

『目撃者は、消せ』
脳裏に忌々しい神父の言葉が走る。
なんだってこんな、時に・・・・!
「―――――誰だ・・・・・・・!」



ランサー編その3.
戦いより偵察行動、その一連を優先順位として
設定されたランサーにはマスターのその命令には逆らえない。
不本意をかみ締めつつもこの場に現れたその少年の追撃を
開始するのだった。
―――殺すために。