騎士と姫君

「・・・いいぜ。好みじゃねえが出会ったからにはやるだけだ。
そら、弓を出せよアーチャー。
これでも礼はわきまえているからな。それぐらいは待ってやる」

ランサーから見ても見事な逃走劇を演じた少女は
彼と戦う為にその従者を顕現させる。
だが。目前の騎士はランサーに応えない。
『敵に語るべき言葉はねえってか?
・・・・・・否』
思わず。ランサーは口の端を吊り上げる。
赤い騎士は待っているのだ。己が主の・・・・一言を。
むしろその沈黙はアーチャーの揺ぎ無き意思を感じさせた。

―――主命あらば。
貴様の命をここで刈り取ってくれようぞ―――と。

『クックッ・・・皮肉だな』
信頼する主を背に不利を承知で全力を尽くさんとする赤い騎士。
奴は守るものがあるのならば死を賭しても退くことはあるまい。
それは奴の目がそう語っている。
片や―――
主を殺すことを目的とし意に沿わぬ偵察行動に奔走する飼犬。
死力を尽くした戦いを望みながら全力を出すこと叶わぬ我が身。
それは、戦いに対する侮辱だ。
その全てが・・・彼の矜持を裏切っている。

目前にある騎士の礼は、彼が願った在り方を体現しているかの様に。
槍兵には思えた。
―――それを。皮肉といわずしてなんといおうか。


少女はアーチャーの沈黙の意味に気が付いたのか。

「アーチャー。手助けはしないわ。
貴方の力、ここで見せて」

仕える戦士にとって最上級の信頼の言葉を与えた。


美姫の勅旨をうけ―――
「―――ク」
騎士は赤い突風と化す。


「バカが―――!」
チギュイン!
赤い槍がその心臓を狙い撃ちにする。交わされる剣戟。
馬鹿な騎士の馬鹿な突進。
だがそれは愚直ながらも・・・なんと強く美しいことか!

「たわけ、弓兵風情が接近戦を挑んだな―――!」

そうだ。なればこそ。
この身が下種に犯されようともこの技まで堕ちてたまるものか。
我が身は未だ”仕えるべき主”バゼットとの誓いのさなか。
ならばオマエと共に在るも同然。
この槍こそが最強と信じる。それが我らの思い。
ならば・・・弓兵風情に遅れをとってなるものかよ!



ランサー編その2
青き騎士はただ一人戦場を駆ける。
この誓いをなんとしても叶える為に。
だからそれまでは負けるわけにはいかない。
たとえこの矜持は堕ちようともオマエと走り抜けると誓った
この聖杯戦争で・・・無様をさらしてなるものか。