赤の主従


偵察中に彼がその建物で発見したソレは
ろくでもない性質のモノだった。

『フン・・・。勝利の為とはいえ・・・好かんな』
魂食いの結界。その範囲内にいる全ての人間を
溶解しその魂を集める。それは彼らサーヴァントの力を
増す為に行われる無差別殺戮の為のモノだった。

「―――――ういうモノ?」
超人的な聴力をもつランサーは誰かの話し声を感知する。
『鮭飛びの術』を使いその建物の屋上にある給水タンクの上に
音も無く着地する。

「マスターから供給される魔力だけじゃ足りないってコト?」
「足りなくは無いが大いに越したことは無い。
実力が劣る場合弱点を物資で補うのが戦争だろう。
周囲の人間からエネルギーを奪うのはマスターとしては基本的な戦略だ。
そういった意味で言えばこの結界は効率がいい」
「―――――」
少女は押し黙る。
男の意見は正論だ。
これは戦争。勝者が正義であり敗者は物言わぬ屍となるだけ。

「それ、癪に触るわ。二度と口にしないでアーチャー」

―――だが。
少女は言下にその正論を切って捨てた。
「同感だ。私も真似をするつもりはない」
心なしか。男の声音も弾んでいた。

『ククク・・・』
・・・面白い!
ならばその甘さを貫くだけの力量を貴様らが持ちえるのか。
―――試させてもらおうか。

「なんだよ、消しちまうのか、もったいねぇ」
二人は瞬時にこちらに注意を向けた。
挑発するようにあからさまな殺意を二人に送る。
「―――これ、貴方の仕業?」
「いいや。小細工を弄するのは魔術師の役割だ。
俺たちはただ命じられたままに戦うのみ。
だろう?そこの兄さんよ」
男は、いや。アーチャーは表情を変えない。
嬢ちゃんと違ってこちらは状況を理解しているようだ。
「やっぱり。サーヴァント・・・!」
「そうとも。で、それが判るお嬢ちゃんは、オレの敵ってコトで
いいのかな?」
あまりの可愛らしい反応に在りし日の我が愛する主人バゼットを思い出す。
「―――――――」
一瞬の逡巡の後。少女は行動を開始すべく体勢を変える。
その割り切りの良さ。判断力はまるで・・・。
こいつは―――!
「・・・ほう。対したもんだ、何も判らねえようで要点は押さえてやがる。
あーあ。失敗したなこりゃあ。
面白がって声をかけるんじゃなかったぜ」
右手に死棘の槍を呼び出す。

『さあ。楽しませてもらおうか。オマエの本物を・・・
オレに見せてみろ!』

赤い閃光が少女の心臓に向けて突き出された。



ランサー編その1。
偵察任務中のランサーは広域結界を発見する。
だがその中で見つけたのは結界の主ではなく
在りし日の、彼の主と同じ匂いのする
一人の少女と赤い騎士の姿だった。