カーテン


赤い少女は己の命運を悟ったかのように唇を噛み、じっとしていた。

―――次へ。
そう言葉を繋ぎ、前へ進むのが彼女の矜持。
運命に妥協せず、傷ついても諦めない強い意志。
馬鹿正直に信じることが愚かだと理解しつつも
その思いを捨てることも無く守ってきた、気高い心が。

―――この下らない欺瞞劇の果てに、潰える。

「どうしたランサー。相手は少女だ、貫くのは容易かろう」

そんなものは許せない、故に。

「お断りだ。今回のは従えねえ。オレにやらせたかったら
その令呪でも使うんだな」

そんな下種な仕事は、もうここまでだ―――。


「なに――――?」
両者の間を流れる空気の質が、張り詰めたものになる。
互いが交わすのは敵を見る視線。
すれ違った偽りの主従は、今ここに相対した。

神父が少女を殺そうとすればランサーは彼を止める。
槍兵は今、神父の目的にとって最大の障害である。
故に、この場で少女を殺すのならば……令呪を使うしかない。

―――さあ、3つめの令呪を使え。
そしてその時がこの誓いが果たされるとき。

この少女を殺した時、この矜持は地に堕ちよう。
だが貴様も死ぬ。令呪の縛りを失えば
サーヴァントがマスターに従う理由など、何処にもない。
そして下種になり堕ちた我が身を始末し
この下らない茶番劇に幕引きをしよう。

「……そうか。仕方があるまい。
自分で出来る事に令呪を消費するわけにはいかんのだが……」

わずかな逡巡の後。
神父は左腕を掲げる。
さあ、カーテンコールの時間だ。


「では命じよう。
――――自害しろ、ランサー」


バシャアアッ!

「―――――――ごっ」

飛び散る鮮血は舞台を赤く染め。
真紅のカーテンは、槍兵の前だけに……下りた。



ランサー編その31。
ようやく同じ壇上に引き上げた敵は
最後の命令を既に用意していたかのように。
―――告げる。
滅ぶのは、お前一人だけだと。