勝つ為に


追跡のルーンを使い、ランサーがここまで辿りついたのは
全てが終わった後だった。
ランサーと入れ違うように正門から出て行った金髪のサーヴァント。
その前に小さな気配が通り過ぎたように感じたが
ランサーは凶暴な気配を持つその男に注意を奪われていた。
異形の力を持つ金髪のサーヴァント。
それはこの場にある全てを根こそぎ破壊していった。
残ったのは朽ちた城、滅びた主従、そして……。

夕日に照らされる古城。
誰かの墓の前で少年と少女が黙祷を捧げている。
少年は動かない。少女は少し離れた場所から少年を見つめる。
その静寂はあまりにも重く、少年の肩は
夕日に消えてしまいそうなほど頼りない。
樹上から二人を睥睨するランサーは
その姿にどうしようもないやるせなさを感じていた。

「……ハ。柄にもねぇ」
柄にも無い。確かにそうだ。
だが、その様は否応無く……ある情景をプレイバックさせる。
「……チッ」
それは、あの日の自分と同じ。
守るべきものを…守れなかった者の姿。
果たすべき誓いを守れなかった者の姿。
無力な己を、何も出来なかった自分を呪う…
敗北者の姿だ。
「…………」
くず折れても、責めはしまい。
だが、戦う意思の無いものに協力する所以も無い。
踵を返し、城から立ち去ろうとしたランサーを
引き留めたのは……少女の声。


「次よ、士郎」
少女の声は、重苦しい沈黙を吹き飛ばすかのように……
強く、力強い響きを持っていた。
声に呼応するように少年も顔を上げる。
その顔には…既に後悔など微塵も無い。
ただ、前へと進む為の決意だけがあった。
「ああ。行こうか、遠坂。」


「……クク」
それはなんと快活な様なのだろう。
そう。この身に必要なのは後悔ではなく、為すべき事。
敗北は終わりではなく、勝利する為の通過点。
だから決して振り返りはしない。
突き進むしかないのだ。勝つ為に。
「ハッ……!
びーびー泣いてる様なら協力するのはやめようかとも思ったが…
がんばるじゃねぇか、ひよっ子共」
状況は絶望的。打つ手は限りなく0。
それでも勝つ為には突き進む。たとえ、傷を増やそうとも。

その在り様は愚直ともいえよう。
だがランサーにとって、それはとても好ましいものだ。
―――二人の姿が、不器用な魔術師の姿と重なる。

少年とともに崩れた城へと歩き出す少女。
その背中からは負ける気など一片たりとも感じない。
「クク……」
返しかけていた踵を再び城に向ける。
愚直ながらも、頼もしいその背中を…ランサーは追いかけることにした。
―――そう、勝つ為に。


ランサー編その19。二人との再会。
第8のサーヴァントの出現によりバーサーカーは倒された。
予期せぬ敵の出現に警戒しながらも
いまだ折れることの無い魔術師達に協力する為
ランサーは二人を追う。