戦士の休息


新都と深山町を繋ぐ大橋、冬木大橋の袂にある海浜公園。
新都を本拠とするランサーが深山町へと赴くには
この橋を渡るしかない。
当然この海浜公園も彼にとっては縄張りも同然であり
また、陰気な神父との生活で疲れた精神を癒す憩いの場でもあった。

『あーー・・・だりぃ・・・』
日がさんさんと照る冬にしては暖かいその日。
霊体化した状態でベンチに座るランサーはだらけていた。
冬木中央公園でのライダーとの一戦以来捜せども
バーサーカーのマスターとは遭遇することも無く、また他のマスターとも
一戦を交える機会も無かった。
「命を下すまで所在が知れた敵との交戦を禁ずる」
とのマスター命令の為、セイバーやアーチャー、柳洞寺を攻めることも出来ず
ここ数日はバーサーカーのマスターの本拠の探索に
躍起になっていたのだが。
『みつかりやしねぇ。いい加減うんざりだな・・・クソッ。
どうしたもんか・・・』
いっそ命令無視してセイバーでも攻めてやろうかと
思い始めたそのときだった。

目前の広場を横切っていくのは鮮烈な―――赤。
アーチャーのマスター、遠坂凛である。
そのうしろには衛宮士郎、そしてそのサーヴァント、セイバーの姿もあった。

『や、やべっ!』
慌てて一行との距離をとるランサー。
公園を一望できる高台のベンチに陣取ると、彼らの行動に注視する。
『あーちなみに出歯亀じゃねえぜ?偵察行動だからな』

―――芝生の上に陣取った三人は少女が作ったと思われる
軽食を食べながら楽しく話している。
少年は少女の言動にひどく敏感で、少女はそれが面白くて少年をからかう。
少女も少年の言葉を聞くのがひどく楽しそうだ。
それはまるで―――

『・・・デートじゃねえかよ。余計なのが一匹いるみたいだが』
猛烈な勢いで軽食を平らげていく金髪の少女を
苦笑しつつ見つめるランサー。
『ククク・・・やっぱあの嬢ちゃん大物だわ。
イニシアティブ握ってんのはどうみても嬢ちゃんだし
あのボウズ誘い出したのもたぶん嬢ちゃんだろうな。
聖杯戦争中だってのによ・・・クク・・・』
どうやらアーチャーも連れていないらしい。
そのあまりの胆力に呆れを通り越して興味を覚えるランサー。

―――少年の言葉に狼狽したり、喜んだり、言葉尻を捉えて反撃したり。
その少女の様は恋する、とは言わないまでも
少年に対して大きな好意を持っているに違いない反応だった―――

『こらボウズ、そこはそうじゃねえだろ。
かーーーー!どれだけネンネちゃんだよおい!?
あーもう俺に代われ!オマエにはもったいねぇ!』
あまりにも初々しい彼らの反応をやきもきしながら見つめるランサー。
すっかり出歯亀である。

そうして小一時間ほど経ち。ランチボックスを空にした彼らは
その場を離れていった。
尾行もしなければ追跡のルーンも飛ばさない。
それは野暮というものだった。
『・・・・たく。あーあ。こっちは陰気なクソ神父と夫婦生活だってのに
ボウズはうらやましいこった!』
そういうとベンチに浅く腰掛け、背もたれに体を預けるランサー。
まぶしい太陽の下、大きく伸びをする。
『・・・やれやれ。まぁ、たまにゃこういうのも・・・悪くねェか。
たのしんどけ、ボウズ。
おれたちゃ・・・この命がいつ果ててもおかしくねェ・・・
戦場にいるんだからよ・・・』
楽しげに歩いてゆく三人の姿を目で追いながら、午後の日差しの下
ゆっくりと目を閉じる。
それは久方ぶりの、ただの休息の時間であった―――。



ランサー編その16。
出歯亀ランサー。
待ち焦がれた遭遇はあまりにも平和すぎて。
毒気を抜かれたランサーはその平和な空気に身をゆだね
しばしの休息をとる。