偽臣の礼


「なああああっ!?」
とてつもない膂力によって空中に投げ出されたランサーは
完全に無防備だった。
そこに投げ込まれる一本のクイ―――!

ダンッ!

「つ……ぐっ!」
右肩を貫いたその衝撃はクイの命中をランサーに知らせる。
だがその衝撃に苦しむよりも早く襲ってきたのは急速な横へのG。
大木に乗ってサーフィンするライダーに、刺さったクイごと引かれているのだ。
「がっ……ぐあああああっ!」
猛烈な勢いで地面にたたきつけられたランサーは大木を追う様に
地面の上をバウンドし続ける。

ガガガガガガガガッ……ドガアアアアンッ!

途中から減速し地面をすべるように走っていた大木は
公園の高台を支える基礎に激突しようやく止まった。
「グッ……ガハッ…!!……く!」
痛みにのたうつよりも早く己の体の状況に意識を走らせる。
貫かれた右肩はもちろん引き回された体もダメージは大きい。
だが、まだ体は動く。
「やれやれ…折角直ってきたのによ……ペッ!」
肺腑よりせり上がる血の塊を吐き捨てると
枯れ木の上に座り、こちらを見下ろすライダーを睨みつける。
「白兵戦が駄目なら戦術と洞察を持って敵を仕留める。
見事だ、ライダーのサーヴァントよ……!」
『だが、今が好機だったハズ―――。
なぜ止めを刺しに来なかった―――?』

「アハハハハハ………!
無様なもんだね。さぁ、さっさと止めを刺しちゃえよ、ライダー!」
耳障りな哄笑が夜の公園に響く。
ライダーを挟んだ対角の高台の上に―――。
本を持った一人の少年がいた。

―――強力な残留魔力によって固有結界並みの異界を形成する
夜の冬木中央公園は普通の人間を寄せ付けない。
それだけで、彼が何者かランサーは察した。ライダーのマスターか―――。

「――――――」
忌々しげに顔をゆがめるライダー。
『ククク……!そういう事かよ。
お互い主人には恵まれてねえってこったな―――!』

気付くが早く獣の如き速さで高台の基礎を駆け上るランサー。
ライダーもそれを待ち構えていたように枯れ木から基礎へと取り付き
ランサーの迎撃へと走るが―――。
「――――ク。
白兵戦じゃ勝ち目がねえから策を弄したんだろうが……!
ついてなかったな、ライダー」

ブオッ!

放たれるは音速に迫る超高速の打突―――!
まるで怪我の影響を感じさせないランサーのその突きは
ライダーの防御をすり抜け大腿部を貫く。
「あ――――っ!」
その一撃で怯んだライダーをかわし彼女のマスターへと迫る。
高台の基礎を蹴り大きくジャンプ。それだけで見下ろす立場だった
少年との相対距離は0になる。
「ひ――――!?」
まだ年端も行かない小僧だ。年のころはセイバーのマスターである
ボウズと同じくらいだろう。
だがその瞳はかの少年とは対照的に。
生き抜くための強さなど微塵も持っていなかった。
「……つまらねえ獲物だこと。
マスターを殺しちゃいけねえって命令は受けてないんでね。
じゃあな、ボウズ」

ブンッ。

無情なる紅の槍が少年に向かって突き出された―――。



ランサー編その14。
窮地に追い込まれたランサーは彼女の愚かなるマスターの出現によって
からくもその状況を脱した。