手負いの狼


月の光が冬木の夜を照らす。
夜の冬木中央公園。
まるで墓場のように静まり返った広場には街灯の光では
照らし出せない深い闇が落ちていた。
夜8時。新都はこれからが盛りの時間。
だがそこには人の気配など微塵もなく―――。
ゆえに戦場にはもってこいの場所といえた。

ギインッ!

静寂を引き裂くように響く鋼の音一つ。
街灯の上で赤い槍を振るう細身の影はランサー。
夜闇を切り裂き飛んできた杭を叩き落したのだ。
「―――月見にイイ女たぁ粋な組み合わせだが・・・。
しつこい女は嫌いでね」
その眼光は戦地に立つ女サーヴァントの姿を捉えていた。
ライダー。その表情はなにも映してはいないが―――。
ランサーの見立てではその内心、相当煮えくり返っていることだろう。
愛多き男ランサー。女を見る眼には自信があった。
「不意打ちもやり方が同じじゃ二度はねえぞお嬢さんよ。
あんたのやり口か?それともマスターさんの指示かい?」
問うランサーにライダーは己が獲物を構えることで応える。
「―――ケッ。
まあ戦略も好き好きだとは思うがよ。
芸のねえ不意打ち二度もやらせるようじゃあんたのマスターも
器が知れるってもんさな。
どうせ手負いを前提に仕掛けてきてるんだろうが・・・」
ピクリとその言葉に反応するライダー。
「―――ご名答か。クク・・・。
だが手負いの狼は怖いぜ―――?!」

ガンッ!

街灯がへし折れるほどの勢いで空中へ躍り出るランサー。
気合一閃ライダーに槍を投げつける!
「―――!」
風を切り飛んできた槍を大きく横っ飛びでかわすと
ライダーの体は林の中へと一直線に飛び込んでゆく。
「ハッ―――!
ちったあ考えてるじゃねーか!」
槍を追うように飛んだランサーは着地と同時にそれを引き抜くと
その勢いのままライダーを追う。

月下の冬木中央公園。ランサーVSライダーの再戦が始まった―――。


ランサー編その12。
ランサーVSライダー。
いけ好かない神父と同じ空気を吸って過すならば
戦地であろうとその空気こそ己には相応しかろうと
外にでたランサー。
血の匂いに誘われて
怒りの蛇がその姿を現した。