三騎のサーヴァントは暫し睨み合う。だがこの状態も長く続くまい。

初手必殺―――。
近接戦闘能力に劣るライダーはそれゆえに
両者の隙をうかがい必殺のタイミングであの”クイ”を放ったはずである。
それをはずしてもなおこの場に残るということは。
彼女はアサシンかランサー、そのどちらかの打倒を
マスターに命じられたに違いない。
アサシンとてこの場から自分たちをみすみす逃がしはしないだろう。
―――だとするならば。
ダメージを受けたランサーにとってこの場での最悪は
アサシン、ライダーの両者に同時に攻撃を受けることだ。

『ならば―――!』
硬直を破り最初に動いたのはランサーだった。走る体躯が疾風と化す。
狙うはライダーの体―――。
「―――!」
獣の如き猛烈な突進に怯むもその槍の一撃を
かろうじて防御するライダー。だがその強打に体勢を崩す。
「――――ク!」
ランサーの顔が獰猛な笑みに染まる。
後ろでアサシンの動き出す気配を感じる。―――好都合!
「フンッ!」
狙ったのはライダーではなくその武器からアサシンへと繋がる”鎖”であった。
槍で鎖を巻き取るように絡ませ
ライダー側の鎖を裂帛の気合と共にスイング!
「―――っ!?」
―――豪腕一閃!
クイを手放さぬライダーの体は体勢が崩れたところを
一本釣りの要領で山門方向へ放り投げられた。
唖然とした表情で空を舞うライダー。
ランサーはそれを見てほくそえむ。

―――そう、ライダーはクイを手放すわけにはいかなかった。
相手はランサーにアサシン。接近戦に絶大な能力を誇る
二人のサーヴァント相手に武器なくして身を守ることは適わない―――。

「―――ぬ!」
さすがのアサシンも左手一本でヒトが投げ飛ばされるという事態に
足を止める。しかも己の視界を塞ぐ様に飛んでくるソレ。
舌打ち一つすると手に持ったクイを投げ捨て
その体真っ二つにせんと長刀を構える。

だがライダーもサーヴァント。
アサシンがクイを投げ捨てたと見ると己の持つクイを急速に引く。
すると鎖は意思あるもののようにうねり、蛇の如く
アサシンの長刀を弾いた。
「面妖な―――」
不敵な笑みを浮かべると頭上を過ぎるライダーをひと睨み。
長刀をなぎ払うように振るう!
だがその一撃をライダーの体は物理法則を無視して回避する。
「なに―――!?」
ライダーの手にクイは無く、その手には鎖が握られていた。
クイは既に石段側面―――杉の木に巻きつけられており
それを軸にまるでターザンのように弧を描いてアサシンの一撃を
回避したのだ。
そのまま杉の木を蹴りジャンプ。
ライダーは軽やかに踊り場へと着地した。
すかさず周囲の状況を確認する為視線を走らせる彼女だが。

「くっくっく・・・面白いものを見せてもらったぞ。
ライダーのサーヴァント。見事な曲芸であった。
―――だが狸は既に巣へと戻ったぞ。
なんとも生き汚いことよな、くくく・・・」
面白そうに山門でそう語るアサシンを視認して気が付いた。

―――ランサーの姿が無いのだ―――。

能面がかったライダーの表情がくやしげに歪む。
完全にしてやられた―――。

「さて―――。
今宵は千客万来。次の相手はそなたかな?
ライダー」
明らかな不利を感じつつもライダーは両手のクイを
構えざるをえなかった―――。


ランサー編その10。
恐るべき戦術眼と機転でからくも
アサシンの相手をライダーに押し付けたランサー。
傷を癒す為に教会へと戻るのであった。