闖入者


「―――秘剣、燕返し―――」

言霊と共に放たれたランサーの首を狙う一ノ太刀。
その一撃は稲妻の如く圧倒的な速さでランサーに襲い掛かる。
しかし音速の槍技を持つランサーにとって攻撃の速さだけならば
それには負けてはいない。放てるからこそ見切れる。
ゆえにその一撃を撃ち落すことは可能なはずだ。

―――ゾワッ。

しかし。ランサーの感覚がそれは危険だと告げていた。
首筋に感じる確かな違和感。それは目前に迫る長刀の刃と―――他3つ。
『真後ろ―――!』
ありえないことであると知りつつも己の判断に絶対の自信を持つ
ランサーは一ノ太刀の攻撃圏に自ら踏み込んだ。
斬撃に対して、肩からの体当たり―――!


「なに?」
目前に迫るアサシンの眉が歪む。その瞳が追うのは一ノ太刀に
自ら当たりに来たランサーと―――迫る黒い杭のようなモノ―――!


キュイイイイインッ!

「があっ・・・・・!!」
技の衝撃に弾き飛ばされ宙を舞う。
ランサーの体は石段の上を勢い良く転がり落ちその半ばで半回転。
体勢を立て直した。槍を持つ手は左手のみ。
―――右腕は完全に破壊されていた。
長髪が夜風にあおられ頬をなでる。右頬も深く切れている。
―――首は、外した様だ・・・。

『・・・間一髪・・・ってところか』
まだ動けるのならば戦闘は可能だ。だがランサーはこれ以上
あの剣士と戦って現状で勝利を収めるのは難しいと判断する。
勘に任せてこの程度の傷で済んだがあの技の全貌は未だ見切れていない。
なによりその男を打倒しうるであろうランサー最大の技・・・。
ゲイボルクの秘奥義は全力が出せない今使うことが出来ないのだ。
だがあの男がそうそう逃がしてくれるものか・・・?
そう思い頭上のアサシンを見るランサーだが。

「・・・!?」
剣士は、黒い杭のようなもの・・・を掴んでいた。
その杭は鎖で繋がれており・・・ランサーの後方へと伸びている。
「なに?」
振り向くランサーの視界に入ったのは女。黒い女の姿だった。
肌もあらわな扇情的な衣装に身を包み、仮面のようなものを身につけた女。
女はその顔に一片の表情をものぞかせず二人を見ていた。

―――既に相対したサーヴァントは
キャスター、アーチャー、セイバー、アサシンの4騎。
それに先日教会前で大暴れをしたというバーサーカーのサーヴァント。
となればこいつは―――。

「―――ライダーのサーヴァント・・・か!」



ランサー編その9。
深手を負いながらも燕返しをくぐり抜けたランサーだが
その目前に新たなサーヴァント、ライダーが現れる。
そのサーヴァントの出現は離脱の機をうかがうランサーにとって
吉か凶か。