餓狼


柳洞寺。
冬木の聖杯戦争における重要な霊脈だと言われるそこは
ランサーがこの地に召還された時に出会った
”魔術師”のサーヴァントの牙城と化していた。

蓄積魔力量は確かに膨大だが所詮は魔術師。
その場で仕留めてくれようと山門を目指すランサーの前に一人の剣士が
立ちはだかる。

「・・・へぇ。
鴨が葱背負って現れる、って奴か?」
「くく・・・なかなか面白いことを知っているな、サーヴァント」
男は5尺―――身の丈に届くその長刀を悠然と構えている。
そのいでたちにはまったく隙が無い。
「満足いかねえ仕事ばかり押し付けられるもんでな。
愚痴が多けりゃ語彙は増えるってもんさ。
―――あんたは満足させてくれるか?このオレを」
「そっ首叩き落すことでそなたの意が満たせるのならば
期待には応えよう」
「――――ク。
どいつもこいつも口がへらねえ事だ―――!」

瞬時に槍を実体化させたランサーは山門に陣取る剣士の心臓を狙う。
が、疾風の如き速さで振るわれる長刀は易々とその閃光を切り払う。

「――――!」
「―――粋というものを弁えん輩よな。
名乗りも上げぬか」
返礼とまでに振るわれた返しの刃はランサーの領域を深く侵す。
「―――テメエ・・・!」
続けて膝、右腕、眉間と線をずらした高速の刺突。
あの長刀である。超高速で突き出されるこの連撃に対処は出来まい。
だが。
流れるような円運動から繰り出された斬撃はまるで
ランサーの”意”を読んだかのようにその攻撃を寸断する。
アーチャーのように”意”より遅れて防御する後発的な防御とは違い
男が行うそれは”予見”・・・”意”を読み攻めさせない
達人の技。

「なんだと・・・」
「くく・・・槍の使い手・・・ランサーのサーヴァントか。
なんとも明朗かつ快活な太刀筋よな。
だがそれゆえに読みやすい」
挑発するように言葉を紡ぐ剣士。だがその一言は意図が明確である分
むしろランサーを冷静にさせる。

―――三倍段という言葉がある。
槍を持った相手を剣術で制するにはその三倍の技量がいるという。
ならば初手でランサーの意を汲み取り槍と互角の戦闘を行う目前の男。

―――純粋に、強いのだ。

「クハハハハハ!
いいだろう剣士。戦士の儀礼だ、名乗ってやる。
我が名はアルスターの猛犬、クー・フーリン。
この槍の技の全てを持って貴様の剣に応えよう」
礼を語るにはあまりにも猛々しい気配を発するランサーに
剣士は苦笑する。
だが甘い気配など微塵も無い。むしろ怜悧な表情の裏には
恐ろしいまでの気迫が漂っていた。
「―――我が名は佐々木小次郎。アサシンのサーヴァント也。
ランサーのサーヴァント、クー・フーリンよ。
さぁ、存分に果たし合おうではないか」

柳洞寺に剣戟が木霊する―――!



ランサー編その7。
柳洞寺に進入したランサーは門の守り手、アサシンのサーヴァントと
相対する。
槍対長刀。その火蓋が切って落とされた。