根無し草


「うーーーー」
「イリヤ、そろそろ機嫌直さないか?」

 衛宮邸縁側。
 ふてくされてごろ寝している私の傍らで、縁側に腰掛けたシロウが苦笑を浮かべてる。
 今日は日曜日。学校もないシロウは私の暇つぶしに付き合ってくれていた。

「いいよ別に。タイガーは帰ってきたらライガに折檻だし。
 あーすっきりー」
「今日帰ってこないんじゃないか?」
「帰るところもないでしょ。ネコの方に連絡してタイガーを泊めないでって伝えておいたし」
「うわ………」

 口元を引く付かせているシロウ。
 ふんだ、やる時は徹底的にやる。こんなの勝負の鉄則よね。

「しっかしさ……イリヤなんで隠してたんだ?」
「なによ」
「子猫の事だよ」

 何気ない口調で問うてくる。
 本当に何気ない質問。だからこそ、私は返答に詰まる。

「そ……そんなの私の勝手よ」
「相談してくれれば子猫飼うぐらい力になるぞ」
「っ―――別に飼ってない!」

 思わず身を起こして反論する。
 びっくりして目を丸くするシロウ。

「飼ってない?」
「………そうよ。勝手についてきただけ。
 飼ってるわけじゃ………ないもん」
「………………そうか」

 複雑な表情を浮かべて微笑むシロウ。
 その目はなんだか……私の内心を見透かしているようで面白くない。

「どこかに消えたなら、それでおしまい。
 だからいいの。シロウもサクラも、あの子の事気にかける必要なんてないわ」
「………イリヤ、行こう」
「………え?」

 私の手を引いて立ち上がるシロウ。
 今度は私が目を丸くする。

「ど、何処に行くの?」
「決まってるだろ。子猫のところに、だ」
「な、なんで?」

 私の問いに、苦笑して答える。


「友達になりに、さ」



こねこ日記―――その3。
根無し草は風に吹かれて飛んでいくだけ。
誰も気に止めないのなら、いてもいなくても同じ事。
それはきっと自由だ。それがきっと………一番。